読むきっかけは、小林完吾の「この愛、こだまして」(廣済堂)の対談を読んでいて、”幸福は身近なところにある””小津安二郎、笠智衆の世界”に惹かれて、読みたいと思った。
登場人物像:
桜木三郎、電博通信社に入社20年、音楽映像プロデューサをする。妻紀子と長男弦(高一)、長女静(中一)、次女(奏(かな)小五)、(・・・弦を静かに奏でる・・・)の五人家族。桜木三郎の父親は3歳の時になくなっている。
読後感:
ごく平凡な日常の生活がユーモアたっぷりに描かれ、思わず微笑ましくなる。二俣川や海の見える三浦半島の公園墓地など、身近な場所が出て来て、身近な出来事に心の襞がゆらゆら、暖かい気持ちで、すらすらと読んでしまう。
題名が「海辺の生活」とあるが、海辺の生活は一切出てこない。主人公が海を見るのが好きというところは、海好きの自分としてはよく気持ちが分かり、この点でも好ましい作品である。
特におもしろかったのは、大学三年の時、新潟の帰省先から上京のため上越線・特急とき号の列車での紀子との出会い場面(第3章「不思議なご縁」)。
また、義父が肺ガンで亡くなるまでの様子は、普通は深刻な重苦しい場面であるのに、なんとなく爽やかで思いやりがあって、こんな風に看取られて逝くのも決して悪くないなあと感じさせられる、そんな風景である。(第11章「富士山」)
主人公と紀子が若い年で結婚する披露宴での、紀子の父親の挨拶も実にさらつとしていて、暖かでおもいやりが伝わってくるいい場面である。
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