(作品は、新井満著 『尋ね人の時間』 文藝春秋による。)

「尋ね人の時間」文學界1988年(昭和63年)6月号初出。第99回芥川賞作品。
本書 1998年(平成10年)8月刊行。
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主な登場人物:
主人公、神島 |
写真界の大きな賞を何度も取る有名な中年カメラマン。ちょっと陰はあるものの容姿も5年前突然不能となり、苦しんでいる。医師からは医学的には全然問題なしといわれる。 |
妻 カオル |
月子が小学1年の時離婚して再婚。相手は神島より5歳くらい若いがっしりとした躰の大手建設会社の男。
相手に、カオルはあなたのどこに惚れたのでしょう?との質問に「健康でしょうね。躰のことでなく、考え方とか心の持ち方とか。あなたはいつもうしろ向きに歩いているのではありませんか」と。カオルの方で月子は引き取っている。
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娘 月子 |
手のかからない無口な子。離婚後月1回一泊二日で逢うことを認められている。絵が好き。 |
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山田 |
カメラマン仲間。 |
岡崎 |
カメラマン仲間。 |
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圭子 |
美人の女子大生。境遇は娘の月子と似ている。
神島の数年前に出した写真集「尋ね人の時間」が一番好きという。
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読後感:
本書を取り上げたのは新井満の著者と題名に引かれたのであるが、読み出す前に新井満のエッセイ「そこはかとなく」(1997年8月刊行
河出書房新社)の最初の方に芥川賞受賞にまつわる話が載っていて、決定までの受賞者の立場での話が面白かった。それはよしとして、第U章(?)に主人公が不能者の設定とあり、これはどんなものかと危惧はしたけれど、内容は判らないところもあったが、月子という娘(子供)と月の出ていない横浜の埠頭でかわす会話、最後の章でのモデルである圭子との「尋ね人の時間」という写真集にまつわる会話、さらに雪の中での行動の中に何とも言えず感動するものがあり、なるほど芥川賞を取る作品であるだけのことはあるとの思いに至った。
本筋はもっと違うところにあったのかも知れないが・・・。
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印象に残る場面:
◇圭子の言葉
「あなたの尋ね人はみな死んでしまった人たちばかりなのね」「生きている人を尋ねてはもらえないんですか」
「いつかあなたが生きている人を尋ねたいと思うようになったとき、まっさきにわたしのことを思い出してくれますか」
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