安東能明著 『撃てない警官 』


 

              2016-10-25



(作品は、安東能明著 『撃てない警官』   新潮文庫による。)

          
 

 初出 この作品は2010年10月新潮社より刊行。
 本書 2013年(平成25年)6月刊行。

 安東能明(本書より)
 1956年静岡県生まれ。明治大学政経学部卒。浜松市役所勤務の傍ら、‘94年「死が舞い降りた」で日本推理サスペンス大賞優秀賞を受賞し創作活動に入る。2000年「鬼子母神」でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞する。「15秒」「幻の少女」「強奪 箱根駅伝」「ポセイドンの涙」「螺旋宮」「潜行捜査 一対一○○」「聖域捜査」「12オクロック・ハイ 警視庁捜査一課特殊班」「伏流捜査」など、緻密な取材に裏付けされたサスペンス、警察小説で注目を浴びている。 

主な登場人物:


芝崎令司(36歳)
妻 雪乃
息子 

警視総監直属の総務部企画課企画係の係長、警部。しかし部下の拳銃自殺事件の責任をひとり取らされ、綾瀬署警務課課長代理に左遷される。
・義父 山路直武 新宿署署長から最後は第七方面本部長を務めたノンキャリ。現在は吉岡記念病院の総務部長。

綾瀬署幹部たち

・小笠原署長 交通部出身。意固地なほど慎重居士。
・助川副署長 綾瀬署をコントロールするやり手。柴崎が警部補に昇任し警察学校で泊まり込みの教養で初めて顔合わせ、1時間立ちっぱなしの洗礼を受けた相手。警務課課長兼務、49歳。
・浅井刑事課長 刑事畑一筋の刑事。
・八木生活安全課課長。
・望月地域課課長。
・池谷警備課長。

<撃てない警官> 本庁総務部企画課係長時代、部下の拳銃自殺事件に絡む左遷。
木戸和彦(28歳)

ウツ病で仕事は犯罪被害者支援の軽度の事務仕事をこなし、最近症状改善の兆し。拳銃射撃訓練に参加の場面で拳銃自殺。
・木戸誠司 父親、刑事。

中田政則

総務部企画課課長。
・三宅 管理官。

石岡稔 小松川署警務課課長代理、42歳。捜査一課で係長になりたてで連続強盗傷害事件での失策の責任を取らされ落とされた。木戸誠司に恨みを持つ。
<孤独の帯> 自絞死の老女は自殺か他殺か。柴崎が初めて犯人逮捕にワッパをかける。
石津米子

一人住まいの老女、72歳。スーパーつぼいでパート。人付き合いなし。変死体で発見される。桜コーポに住まい。
・娘 成沢順子(41)、夫辰男 順子と米子折り合い悪い。
生活は苦しい。

桜コーポの住人

・大家 野村秀子
・栗田明美、

<第3室12号の囁き> 柔道世界選手権大会の警備計画書が証拠保管庫で紛失、方や留置場の看守が留置場の被疑者に便宜を図っている模様。
青木隆弘(28歳) 看守、巡査長。この6月地域課から警務課留置係に配属の若者。
坂本和子(32歳) 警務課員。市民からの相談をさばく広聴担当の相談員。
小柳透(とおる) 詐欺幇助の疑いで留置中。小柳は看守から便宜を図られている様子。
辻井園美 青木と出会い系サイトで知り合う。小柳とも付き合っている。
<片識>(かたじき) 片識とは「片方」だけが「識る」つまりストーカーのこと。
森島常夫

中央本町交番の警官、巡査部長。要注意人物ではない。
・長男の知之は介護福祉志望。
・長女の弓子は芸大出、都の交響楽団団員。

小西美加(26歳) ストーカー被害者。ストーカーは森島と綾瀬署に連絡。
<内通者> 自分を追いやった中田課長の情報を石岡から入手、裏金作りを調べて本庁復帰を目指す柴崎。
石岡稔(42歳) 小松川署交通課課長代理。柴崎が中田企画課長により嵌められた発端を作った人物。
関口史男(ふみお) 警視庁を7年前に退官の元警官。助川副署長から警察学校の関係者を紹介してもらった。
<随監> 評判の交番所長が被害届を隠す? 方面本部の随時監察で被害届がロッカーから見つかり綾瀬署に激震がはしる。
村井康平(26歳) 配属2年目の巡査、個人ロッカーから3ヶ月前の被害届が発見される。
広松昌造(58歳) 名物交番所長。弘道交番勤務9年の巡査部長。過去に警察の仕打ちに反抗心を有している。地域課の望月課長と同期。
島貫光雄(33歳) 中学生らしき人物によるオヤジ狩りの一種の被害を受け被害届を出す。
<抱かれぬ子>
池野亜紀 赤ん坊産み落としの女子高生。父親と2つ年下の弟の三人暮らし。
名倉恭子 吉岡記念病院の看護師。新生児担当。
山路直武 吉岡記念病院総務部部長。柴崎の義父。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

新署長は女性キャリア。混乱する所轄署で本庁から左遷された若き警部が難事件に挑む。人間ドラマ×推理の興奮。本格警察小説集。

読後感
  

 先に読んだ「伴連れ」「出署せず」に先立つ本書が柴崎令司や綾瀬署の人間を知る最初と言うことになる。
<撃てない警官>で柴崎令司が事務職としては本庁の花形部門である警視総監直属の総務部企画課企画係の係長、警部という位置からくしくも嵌められ、ひとり責任を取らされて綾瀬署の警務課課長代理に左遷される。その真相は・・・。

「伴連れ」や「出署せず」はその後の綾瀬署での仕事ぶりであるが、どうもこの最初の頃の柴崎令司は荒削りというか、ぎらぎらしたところが有り、矛盾に対する怒りとか、反発心が旺盛であるという印象を受ける。次第に謙虚とか、身の程を知るようになったと言うことか。
<孤独の帯>では浅井刑事課と助川副署長の柴崎に対する粋な計らいが胸にじんとくる。

<随監>は日本推理作家協会賞(短編部門賞)に輝いた作品と。広松昌造という地域住民の評判の良い交番所長の過去が明かされ警察不信となったその後の生き様が鮮やかに、一方でオヤジ狩り被害者の島貫の素性がむなしい。でもそんな人間にも広松の懐の深さがすがすがしい。最後に柴崎にかけた言葉がみごと。
 そんなところが賞となったのか。

<内通者>と<抱かれぬ子>では事件の合間に柴崎を嵌めた中田に対する復讐心と本庁に戻りたいの執念が続いている。しかしそれが警察にとって、果たして自身にとって警察にとって良い道なのかは義父の行為で怒りが静まったのか。
 この後に出来た作品では本庁復帰の強い思いは顔を出すものの本作品ほどには感じられない気がする。柴崎自身成長してるのかもしれない。そんな作品である。 

  

余談:

 警察内部の内幕が小説になっているという点で横山秀夫の「陰の季節」や「動機」がよく引き合いに出される。その系統作品として興味のあるところ。

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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