安東能明著 『 伴連れ 』


 

              2016-08-25



(作品は、安東能明著 『 伴連れ 』   新潮文庫による。)

          
 

 初出 この作品はyomyom poket 2014年10月14日〜16年1月28日連載に加筆訂正。
 本書 2016年(平成28年)5月刊行。

 安東能明:(本書より)

 1956年静岡県生まれ。明治大学政経学部卒。浜松市役所勤務の傍ら、‘94年「死が舞い降りた」で日本推理サスペンス大賞優秀賞を受賞し創作活動に入る。2000年「鬼子母神」でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞する。’10年「撃てない警官」所収の「随監」で日本推理作家協会賞(短編部門)受賞。「強奪 箱根駅伝」「螺旋宮」「潜行捜査」「聖域捜査」「12オクロック・ハイ 警視庁捜査一課特殊班」「大U捜査官」「出署せず」「侵食捜査」「CAドラゴン」シリーズなど、緻密な取材に裏付けされたサスペンス、警察小説で注目を集めている。 

主な登場人物:


芝崎令司
妻 雪乃

綾瀬署警務課課長代理。総勢400人を抱える署の人事や福利厚生などを受け持つ総務的な役割を担う。去年の6月まで警視庁本部筆頭課にあたる総務部企画課企画係長。部下の拳銃自殺の責めをひとり背負わされ綾瀬署に左遷。

高野朋美(ともみ)
(26歳)

綾瀬署刑事課盗犯第二係、巡査。父親は東京都議会の5期当選の議員。
入庁してから4年、今年の春、綾瀬署配属。物怖じしない根っから明るい性格。
・上司 警備畑出身の古橋喜信警部補。

綾瀬署幹部たち

・坂元真紀署長
・助川副署長
・浅井刑事課長
・八木生活安全課長

<掏られた刑事> 高野刑事が警察手帳を掏られ、署内は緊迫を迫られる。

波多野澄雄(すみお)
(55歳)

綾瀬署刑事課盗犯第一係の係長。ベテラン中のベテラン。
<墜ちた者> 池谷の転落死がらみで危険ドラッグが、一方振り込め詐欺のアジトから池谷と同じ薬物が見つかり・・・。
中道昭雄(50歳)

綾瀬署生活安全課少年第三係長、警部補。初発型の少年犯罪事案を扱う。
中道の功績はすごい数字。
・尾山少年第二係長。 福祉犯罪のエース。

池谷遙人(はると)
(17歳)

コーポ堀口の前の路上に転落死。薬物反応あり。
・町田英太 オートバイ盗の常習犯。

<Mの行方> ストーカー事案に坂元署長は非常な入れ込みよう、それにしてもどうして被害者の居所を知って執拗に迫ってくるのか?
竹井奈

ストーカー被害者。
高野刑事が張り付く。

松原敦史(あつし) 竹井奈獅ニ付き合うも、嫉妬心が異常に強い男。別れ話に執拗に奈獅ノ迫る。
山内芳裕(よしひろ) 綾瀬署生活安全課防犯係係長、警部補。実直そのものの50歳前。
<脈の制動> 吉岡記念病院の義父から宇川和信のクレームについて相談が入る。

宇川和信(33歳)
妻 尚美

不整脈を訴え吉岡記念病院に検査入院(心臓外科はなし、循環器科で受け入れ)。点滴ミスにクレーム。しかし警察が入ってくると知り退院してしまう。
・妻の尚美は田端にある総合病院の看護師。

山路直武

芝崎令司の義父。警視庁を退職、吉岡記念病院の総務部長として勤務。心臓外科はなし。

野呂係長 綾瀬署刑事課係長。医療関係の業務上過失事案に強い。
<伴連れ> 元理事長のマンションのベランダから強盗が侵入、大原は負傷して入院、妻も怪我をする。マンションには3ヶ月前にも泥棒に入られ綾瀬署は早急に犯人を挙げる必要に迫られる。

大原雅之(82歳)
妻 倫代
(みちよ)
息子 井原尚史
(ひさし)

元裁判官、6年間マンションの管理組合の理事長を勤め新理事長に引き継ぐ。脳梗塞で左半身マヒの車椅子生活。妻が介護。
・妻の倫代 二人とも離婚歴、再婚。介護疲れを息子に愚痴っている。
・息子は倫代の前の夫の子。

田尻守 マンションの管理人。
佐久間葉子 大原の下の階の住人。大原家の騒音に苦情。
赤池聖也(22歳) 不良仲間のリーダー。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

警察手帳紛失という大失態を演じた高野朋美刑事は、数々の事件の中で捜査員として覚醒してゆく…。警察小説はここまで深化した!

読後感
  

 予備知識なしの読書で、誰が主人公かと最初は戸惑った。<掏られた刑事>を読んで課長代理の芝崎と高野朋美巡査がメインかと。でもチョット違ったみたい。<墜ちた者>では高野朋美はちょい役。どうも坂元署長をサポートしながら芝崎が主人公かと分かったところでやっと落ち着いて読めるように。

<掏られた刑事>の高野朋美の明るく全く子供のような性格がほほえましい。その性格が他の章でも随所に現れている。特に高野朋美が<Mの行方>のラストで坂元署長の指摘に対して返す言葉で放った「お言葉ですが、人間の恐ろしさをおわかりになっていないと思います」に言われた坂元は顔色をかえたと言う描写は痛烈すぎて痛快きわまりない。いっぺんに高野刑事に愛着を感じた。
 
 この章では芝崎もストーカー事案に対する坂元署長の細部にわたる指示に動かされっぱなし。
しかし<脈の制動>での高野は、先の<Mの行方>での竹井奈獅ノ張り付いていてストーカーの松原敦史が自殺を遂げたことに見抜けず思い返すと眠れない状態で、覇気はなく、口答えする筈も反論の医師が全く感じられない状態。
 その他上司の愚痴を芝崎に告げてみたりと。

 読み進んでいる内に、主人公の芝崎なる人物は署長や副著長、刑事課長たちの指示には逆らえず、自分の業務ではないのにと思いながら自分を納得させて行動するし、時には女署長の相談役になったりすることもと、今までの警察小説とはチョット変わった実際の世の中の雰囲気に合っていて結構面白い。

 副主人公とも言える高野刑事も脚光を浴びたり、めざましい活躍をしているわけではなく、次第に刑事としてひらめいたり、上司の言われることに不満を抱きながらも芝崎に愚痴をこぼしたりして、成長していく様子がいい。坂元署長が高野のことを芝崎に「見直したわ。この調子でフォローしてあげて」と言わしめるあたり、今後も期待できる。

 

  

余談:

 本作品、扱っているのが危険ドラッグのこと、ストーカー被害のこと、医療過誤のこと、介護のことと現在の問題点を話題に扱っていることから、鋭い視点で見つめている点も新しさを感じる。
 本の題名にもなっている「伴連れ」が最後に持ってきてあるが、最初の「掏られた刑事」から並べられた内容はなかなか上手い配列で考えられていると思った。

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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