安東能明著 『 出署せず 』


 

              2016-09-25



(作品は、安東能明著 『 出署せず 』   新潮文庫による。)

          
 

 初出 この作品はyomyom poket 2013年10月17日〜14年6月19日連載に加筆訂正。
 本書 2014年(平成26年)7月刊行。


 安東能明(本書より)

 1956年静岡県生まれ。明治大学政経学部卒。浜松市役所勤務の傍ら、‘94年「死が舞い降りた」で日本推理サスペンス大賞優秀賞を受賞し創作活動に入る。2000年「鬼子母神」でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞する。’10年「撃てない警官」所収の「随監」で日本推理作家協会賞(短編部門)受賞。「15秒」「幻の少女」「強奪 箱根駅伝」「ポセイドンの涙」「螺旋宮」「潜行捜査」「聖域捜査」「12オクロック・ハイ 警視庁捜査一課特殊班」「大U捜査官」「出署せず」「侵食捜査」など、緻密な取材に裏付けされたサスペンス、警察小説で注目を集めている。  

主な登場人物:


芝崎令司(37歳)
妻 雪乃
息子 

綾瀬署警務課課長代理。総勢400人を抱える署の人事や福利厚生などを受け持つ総務的な役割を担う。去年の6月まで警視庁本部筆頭課にあたる総務部企画課企画係長。部下の拳銃自殺の責めをひとり背負わされ綾瀬署に左遷。
綾瀬署幹部たち

・坂元真紀署長 春の移動で2日前に着任のキャリア。
・助川副署長 綾瀬署をコントロールするやり手。
・浅井刑事課長 刑事畑一筋の刑事。
・高森交通課長
・八木生活安全課長

<折れた刃> 退職間際の石村警部補の、職質にまつわる件が告発され監察が重大事案と。

石村

綾瀬署地域第三係の統括係長。今年3月退職予定。
昨年11月、石村が当直主任の夜、職質をかけた二人の巡査(川島、松田)から銃刀法違反の恐れのある案件で相談を受ける。

水越 地域第三係の巡査。石村警部補に世話になったり助けられたりして石村に魅力を感じていたりしていたが・・・。
<逃亡者> 40代の自転車の女性ひき逃げ事件、白いミニバンの車。
中里幹男 中里工業の社長。
重本晃太(こうた) 前持ちの元従業員(先々週まで)、執行猶予中。昔ホストクラブに。
関谷和人 重本がホストクラブの時の知り合い。
<息子殺し> 息子殺しの動機は?

稲生利光(63歳)
息子 裕司

製麺業を営む、保護司。息子殺しで逮捕、留置場に。
犬の’ロック’を飼っていたが、犬は息子殺しの前に毒死?。
息子の裕司と二人世帯。裕司はアルコール依存症で酒を飲み暴れることも。

狩野遙人(はると) 利光のおかげで更生。
高野友香(32歳) 6年前北区王子のワンルームマンションで殺害死体見つかり犯人未だ見つかっていない。
<夜の王> 9年前の強盗傷害事件(未解決)の証拠品(4本の煙草の吸い殻)に不具合が、本部の月例監査が迫る中綾瀬署内は・・。

城田克佳(かつよし)
渾名:夜の王

刑事課の記録係の係長、警部補。1昨年の4月強行班係長から記録係係長に課内異動させられる。助川副署長は城田を嫌っている。
那須雄介 刑事課の若手。
竹之内勲(39才) 5日前ファミレスに押し入り強盗で逮捕される。DNA鑑定で9年前の指紋と一致。
光岡吉弘(35才) 去年、亀有のコンビニ強盗事件で逮捕される。DNA鑑定で9年前の指紋と一致。
<出署せず> 刑事課の植野刑事の取調中被疑者に暴力を振るったことで監察が入ることに。綾瀬署は刑事課長と女署長の間が険悪に。
植野厚弘

盗犯第三係刑事。迫田の取り調べ時の不祥事で監察が尋問することに。独身寮の寮費横領の疑いも。

小松原幹男 本庁捜査一課特命捜査対策室の刑事、警部補。
矢口昌美(32才) 5年前捜索願が出されていて、今年父親が退職、再捜査申し立てのビラ配りを始める。衣料関係の販売員。昌美は激しく粘っこい女だった。
迫田峯夫 連続ひったくり容疑で逮捕され、取り調べ時植野刑事に小突かれ転倒して怪我。弁護士が事実確認を要求。
南部周三 ひとり住まいの71才。迫田にひったくりに会い現金を取られ、怪我を負わされるも被害届出すことを拒否。面会すらさせない。ゴミ屋敷状態。
古山健次 南部周三の甥。母親が南部の姉。
平松加世子

矢口が勤めていた店と同系列のセレクトショップの店長。
当時矢口副店長、平松は派遣の平店員。

横江充(みつる) 矢口昌美のもと彼。
二宮翔平 矢口昌美と中島彩花に二股を掛けている。
中島彩花 二宮翔平の恋人。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

新署長は女性キャリア。混乱する所轄署で本庁から左遷された若き警部が難事件に挑む。人間ドラマ × 推理の興奮。本格警察小説集。

読後感
  

 警察小説ながら実に身近な問題が話題で、ミステリー味を含みながら人間ドラマであり、感情の機微を取り込んでいてちょうど横山秀夫作品の「陰の季節」や「動機」を読んでいるような印象である。

<折れた刃>での柴崎課長代理の立場は女署長を支えながらも、副署長をも含めて「ダーティーワークは引き受けますから、署長は今後も感知しなくて結構です」と俺達は誤ったシグナルを送ってしまったのではないか――のフレーズがこの後の展開を暗示しているよう。

<息子殺し>は読み進んでいくと何とも意味深な内容に思えてきて重くずしんと来る話である。ラストの稲生利光のつぶやく「毒でもよかったなあ」とい言葉の重みがずっと胸に残った。

<出署せず>は最初誰が出署せずなのかと考えていたが、ラストで明かされた。
 それまでは刑事課長の浅井が女署長の厳格な堅物態度に反旗を翻し、綾瀬署の分解を思わせる始末に。
 間に挟まれた柴崎の副署長や課長達の御用聞きのような扱われかたに憤懣やるかたなくも署長との橋渡し役をしたり、畑違いの刑事のような役割を担ったり。

 しかし綾瀬署の危機になると判断して署長に進言するシーンは生真面目なだけに署長をも動かし、刑事課長のやる気も起こさせ事件解決に一役買った顛末はこれぞ柴崎の真骨頂とうならせる。
 しかし犯人を逮捕するも証拠がイマイチの状態を心配しているのに、署長からの知らせをもらえなかったことに傷つく。しかし署長からの最後の一言で早く本部に戻りたいと思っていたのに、後数年はこの女署長を支えていかなくてはならないことに喜びも霧散。

  

余談:

 この警察小説の感じは先に読んだ横山秀夫の短編集「陰の季節」や「動機」で感じたものがそのまま引き継がれているようで、読み進んで行くに従ってその作品の重みが増していきチョット苦しく感じることも。
 時にユーモアも取り入れて息抜きを入れて欲しい感じである。
 先に「伴連れ」を読んでいたが、こちらの「出署せず」の方が先に書かれたものだが、なるほど後の「伴連れ」の方が進化したように感じた。

 解説(村上貴史 ―真面目の魅力)を読むと、安東能明の作家のことが分かりこの作品の前にある「撃てない警官」が最初に柴崎令司の登場する作品であるようだ。是非機会を見つけて読みたい。

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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