物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
午後九時、未帰宅者の第一報。所轄の綾瀬署をはじめ、捜査一課、千葉県警、警察官僚までを巻き込む女児失踪事件の扉が開いた!
読後感:
今回は9歳の小学3年生の女児失踪事件を通して綾瀬署と警視庁の公開捜査を巡る見解の相違から時間ばかり立つことに。しかも5年前の千葉県警下で発生した高橋玲奈ちゃん誘拐殺人事件の容疑者水口文彦(自白していたのを否認に転じ、証拠不十分で放免)を今回の容疑者の本命と考えての警視庁捜査一課の思惑と、千葉県警の恥をさらすのを嫌って綾瀬署からの情報提供依頼をむげに扱うなどいかにもありそうな警察の縄張り意識が事件を最悪の結果に導いた。
警察小説とはいいながら、著者の作品は日の当たる刑事の捕り物というよりは、警察内部の人間の動きを描写している点がちょっと知がつているし、主人公が刑事そのものでなく、署長なり刑事課長なりからの指示や命令で動かされることがあるものの、一方で筆頭課の課長代理として署長なり、副署長なりに相談されたり、頼りにされたりの立場が救いになっている。
そんな中、今回の女署長の面目躍如たる場面は警視庁捜査一課の大貫係長に発したその言葉ではなかったか。(印象に残る場面参照)
その背景にあるのは坂元が警察官に成り立てのころ、大阪の曾根崎署で今回と似た事案を経験、生活安全課の性犯罪対策係長として、事案解決の一翼を担い、必死で取り組むも、結果として女の子は死体で戻ってきた経験が同じ轍を絶対に踏みたくないとの思いがなせるわざだったのだろう。
そしてもうひとり高野朋子の成長ぶりが頼もしい。それを坂元署長が認めだしたのもわくわくする。
やはり思い出すのは「伴連れ」の<Mの行方>で高野刑事が坂元署長に「お言葉ですが、人間の恐ろしさをおわかりになっていないと思います」と放った言葉を署長は忘れていなかった。
おもしろい。
印象に残る場面:
「捜査一課の揚げ足を取ろうとしているのではありません」坂本が言葉を継いだ。
「われわれ警察はたとえどんな理由があろうとも、真実から目をそらしてはいけない。九十九パーセント、犯人に間違いないと思われる人間が目の前にいたとしても、残り一パーセントの可能性は確実に潰してゆくべきです。そうは思われませんか?」
大貫は即答できない様子で、坂本を見つめている。
「責任能力のないものの話だからと無視するのはたやすいですが、かりに事実だとすればとても重要な証言です。真意を検証しなくてはなりません」坂本は毅然と言った。
「みなさんの犯罪に対する取り組みを非難するつもりなど毛頭ありません。ですが、真相はひとつです。それを解明するためにわれわれ警察が存在しており、牽引するのはほかならぬあなた方捜査一課です。大貫さん、一課の実力を見せていただけませんか・・・」
|