天野節子著 『 目線 』





              2011-02-25




 (作品は、天野節子著 『 目線 』 幻冬舎 による。)

                   

 本書 2009年6月刊行 書き下ろし

 天野節子:
 
 1946年千葉県生まれ。本書がデビュー作(61歳)となる。本書は2作目となる。


 

主な登場人物:

堂島家
堂島新之助(65歳)
長女 苑子
長男 大輔(30歳)
次女 貴和子(29歳)
三女 あかり(28歳)

堂島建設の社長。住まいは田園調布の高級住宅街。
65歳の誕生日祝いの日、自殺?事故死?する。
妻の雪江は15年前白血病でなくなっている。
・苑子 直明と結婚。
・大輔 堂島建設の社員。いずれ社長を継ぐことに。
・貴和子 ピアノの講師。性格は何かにつけおっとりタイプ、常にマイペース。
・あかり 本職はイラストレーター、仕事場は自宅。P美術館の臨時職員として採用される。

桐野直明(41歳)
妻 苑子(35歳)
息子 弘樹(5歳)

堂島建設の社員。秘書時代堂島家の長女苑子と知り合い、結婚を認められる。些末事に拘わらない単純明快な性格。堂島建設の社長になることはない。
苑子はせっかちで貴和子と対照的。

松浦郁夫(65歳) 社長の運転手、社長とは30年近い付き合い。一人暮らし。
宮本茂(65歳) 都心のTホテルでフレンチレストランの10年シェフをしていたが退職、堂島家のもてなし料理人。
野村清美(53歳) 堂島家の家政婦。堂島家で13年。
平田小枝子(28歳) 堂島あかりの友人。目黒のP美術館の正職員。
加納拓真(30歳) 堂島大輔の幼友達、付き合いは30年近い。日本歴史学の大学講師。
水谷香苗(27歳) 堂島大輔の婚約者。大手の家具メーカーの企画でデザイン課在籍。大店の娘ではきはきとした物言い、闊達で大柄。
田園調布東署刑事

・津由木哲夫(48歳) 係長
・嶋謙一(27歳) ノンキャリ。
・田神修司(23歳) キャリア組のエリート。3ヶ月程度でで移動することになる。


◇ 物語の展開: 図書館の紹介より

  社長の堂島新之助の誕生祝い。「めでたい発表がある」と言っていた新之助はベランダから飛び降り、亡くなってしまう。自殺とされたが、初七日に新たな犠牲者が…。罠が罠を呼ぶ衝撃の結末。書下ろし長編ミステリ。 


読後感: 

 雨が強く降る夜、堂島家の主人である堂島新之助社長が死体で発見される。自殺が、事故死か、遺書はナシ、居間に集められた家族に向かい、警察の説明、事情聴取が行われる。出だしの方で何か不穏な描写に疑念を持ちながら事が展開する。
 怪しそうな行動の人物は三人ほどいたが、果たしてそんなことではないのではと予想出来る。でも展開は結構興味をそそり、のめり込んでいきそう。この作家の経歴が、先に読んだ「氷の華」で61歳のデビューとその自己出版の持ち主である特異性からして興味津々。
 年の暮れの慌ただしい中でも読みたくて仕方がない。
 
 限られた家庭内での犯行、各人の行動が3人の刑事の事情聴取で明らかにされていくが、なかなか見えてこない。
 そんな中、津由木係長とキャリアコースをゆく田神のキャリアとは違う人柄、若い嶋刑事との三人のコンビのやりとりもいい。
 そして第2,第3の殺人でさらに堂島家にまつわる人物像が明らかになっていく。
 物語の展開が緻密でしかも残酷さが感じられない点もいい。しかし最後の方で今まで気が付かなかった(?)ことがひょっとあらわれた気がした。 さてそんな記述があったのだろうかと。 そして表題の“目線”という意味が明らかになる。何とも緻密な計算の上に出来た作品。
 犯人の犯人像もなかなか同情をかき立てるもので、心に何かが残って読み終わった後、しばらくはしばし呆然。

印象に残る表現:

 津由木が嶋と田神と居酒屋で松浦が堂島貴和子の殺人犯と警察で言われていることに対して言う言葉:

 人を知るということはそういうことだ。 松浦郁夫と実際に会い、その目を見て、言葉を交わさなければ、松浦郁夫を知ったことにはならない。 間接的では駄目なのだ。 じかに接し、声を聞き、話し方を知り、目の動きを見て、初めてその人の印象が、立体的に自分の心に食い込んでくる。 俺は松浦郁夫が堂島貴和子を殺害するなど、“夏の盛りに雪が降るほどにあり得ない”そう言いたかったんだ。


  

余談:

 コケシの由来が記述されていた。コケシは私そのもの。犯人の生い立ちそのものがあらわれている。これからコケシを見るとそういう思いが浮かんできそう。

 

 背景画は、テレビで放映されたドラマ「目線」の一シーンを利用して。