相葉英雄 『血の雫』



              2020-05-25


(作品は、相葉英雄著 『血の雫』      新潮社による。)
                  
          

 初出 「週刊新潮」2017年6月29日号〜2018年7月26日号。単行本化に当たり改稿。
 本書 2018年(平成30年)10月刊行。

 相葉英雄
(本書による)  

 1967年新潟県生まれ。1989年に時事通信社に入社。2005年「デフォルト 債務不履行」で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。2012年BSE問題を題材にした「震える牛」が話題となりドラマ化され、ベストセラーに。他の著書に「血の轍」「ナンバー」「トラップ」「リバース」「御用船帰還せず」「ガラパゴス」「クランクイン」「不発弾」など。 

主な登場人物:

田伏恵介(けいすけ)
妻 美沙
娘 麻衣(14歳)

本部殺人犯捜査第七係警部補。10年ぶりに強行犯捜査に復帰。
上田捜査一課課長から長峰の指導役を要請される。
SIT時代少女誘拐事件で、秘密情報を漏らした刑事のレッテル貼られ、ネットで厳しく糾弾され一時離れていた過去がある。

長峰勝利

生安のサイバー犯罪課から転属の若い巡査長。
スマホいじりの、警察官然としていない態度。

若宮

巨漢の巡査長。中野署の刑事課に配属されたばかり。
河田殺しで田伏とコンビを組んむ。長峰とは肌が合わず衝突しきり。

上田敬浩(たかひろ)

警視庁捜査一課長。硬軟の顔を使い分ける。
SIT(特殊班捜査係)の頃田伏は部下。

中野署の捜査本部 中野坂上の河田光子殺人事件の捜査本部。
杉並署の捜査本部

高円寺の平岩定夫殺人事件の捜査本部。
・秋山修吾管理官 キャリア、警視。本部殺人犯捜査第八係。

牛込署の捜査本部

粟野大紀殺人事件の捜査本部。

三谷圭吾 鑑識課検視官、警視。以前一課強行班捜査にいたベテラン刑事。
猪狩啓司(いがり・けいじ) 元鑑識の田伏にとって大先輩の警官。
[被害者]
河田光子

フリーの自称モデル。背中など五カ所刺殺される。
生活のためバイト。嫉妬型の典型。

平岩定夫

中年のタクシー運転手、45歳。義憤型の典型。
経歴:福岡生まれの大手自動車メーカー系列のディーラーに就職、営業マン。東京に出て小規模のナイトクラブ経営、震災を岐路に、福島生まれの奥さんとは離婚、一年半前タクシー運転手に。

粟野大紀(だいき)
妻 志津代

定年退職後の悠々自適生活者。見守りボランティア活動中。
加藤大吾(だいご) ネット速報サービス<ライトニング>編集部ライター。
斉藤智己(ともき) 中央新報社会部部長。上田捜一課長とは長年の信頼関係の仲。
郡司 カメラ道楽の青年。派遣会社勤務。
葛西教子 復興大臣。元テレビ局の看板番組の総合司会をやっていて、アナウンサーから与党民政党の公募試験に合格、下働きが認められ、三度目の当選で重責を担うことに。
石塚麻紀 カリスマ主婦として有名。雑誌の専属モデル。
マルチ商法の会社<パワーチャージ>の階層高い位置の人間。
<ひまわり> 犯人のハンドルネーム。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 東京都内で連続殺人事件が発生。凶器は一致したものの被害者同士に接点がなく捜査は難航する。やがて事件は、インターネットを使った劇場型犯罪へと発展していく…。前代未聞の「殺人ショー」に隠された犯人の真の目的とは。社会派ミステリ。

読後感:

 都内で起きた連続殺人事件。捜査本部が中野署、杉並署と広がる中、サイバー犯罪課から転属したばかりの長峰の指導役を任されたる田伏警部補。SIT時代上司であった上田捜査一課長から両捜査本部の遊軍的存在を託されるも、キャリアの秋山管理官から疎まれながら、独自の視点で取り組む。
 とにかく被害者の共通点が見つけられず、頼りは長峰という変わり者の行為。しかし長峰が裏サイトを闊歩する河田と平岩の裏の顔を突きとめることで<福島>という共通項を見つけ出す。

 この作品、東日本大震災での、福島の放射線被曝にまつわる後遺症が6年経っても今だ癒えることなく、被災者の苦しみが人々にのしかかり、誰の責任でもないのに一部の人間から罵詈雑言を浴びせられて、自殺者まで出している、そんな憤りを感じさせる。
 それらの中傷に反発した人間が犯行を行っているのではないかと田伏達が行き当たる。

 ラストを迎える際に、田伏のマンションに多分犯人が出向いたところでの、妻の美沙や娘の麻衣との犯人とのやり取りがなにかホットさせる一場面が救いを与える風で、読書の喜びを感じてしまった。
 そしてクライマックス、犯人への思いは田伏と同じ、殺人は許されるものではないが、誹謗中傷する人間に対する怒りは十分理解しうるものである。
 社会派ミステリーと言うにふさわしい小説である。


余談:

 作品中に描写されている東日本大震災での福島の原発事故に関する悲劇は、丁度令和2年3月11日が、あの震災から9年たち、改めて復興の難しさを改めて振り返させる。
 さらには今日の新型コロナウイルスによるパンデミックと、予測困難の現象が地球規模で発生するとは、人類の未来は決して明るいとは言えないから、せめて人類間の争いだけでもなくならないものか。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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