〜 イッカククワガタ採集記 〜

(その4)



人里近くを目指して

早速、車に戻ってブナ林を抜け、適当に、言い換えれば極めていい加減に、小さな集落でもありそうな開けた場所へ向かって車を走らせた 。ブナ林を貫いている県道から、小さな道に入っていくと、牧草地があり、その脇に背の低い木が連なる何とも小さな林が目に付いた。そ こが訳もなく気になって、車を停めてみた。

[小さな林]

道沿いの小さな林


細い木の樹種は分からない。中に分け入ってみると、そこには表面が黒くなるほど朽ちた大木の切り株が点在していた。かなり前に切られ た跡だろう、その樹種は見分けがつかない。牧草地の向こう側に家があり、そこから自分の様子が見られて不審がられる恐れがあったので 、できるだけ身を隠しながら、いくつかの切り株の表面を削ってみることにした。とにかく何でも試してみるより仕様がない。

それらの切り株は、どれも朽ち果てた部分や乾燥した部分が多かったが、削った場所によっては何かの食痕が走っている。ブナ林の中での 朽ち木割りとは明らかに感じが違ったので、少し期待も高まる。この採集には、新しい展開が必要なのだ。

[コルリ♂]

切り株にいたコルリ♂


ところが、ある小さな食痕を追って出てきたのは、何と、藍緑色に光る♂のコルリクワガタであった。驚いた。我が目を疑った。ブナ林で もない、牧草地の脇の小さな林の中の、樹種も分からない大木の切り株から、コルリが出たのである。しかも、その切り株は相当に古く、 湿り気はさほど残されていない。本当に、コルリなのか。しかし、手にしてみると、紛れもなく、これまで数多く見てきたコルリと同じも のであった。

[切り株]

コルリが出た樹種不明の大きな切り株


再び書く。採集は小さな意外性の連続である。これだから、フィールドに出るのは面白くて止められない。しかし、今、採集を止められな い理由は他にある。いまだにイッカククワガタの痕跡すらつかめない。いったいイッカククワガタは何処にいるのか?




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