東京のヒラタクワガタ

- A.CHIBA -



ヒラタクワガタは子供の頃ミヤマクワガタと同様に欲しくてずいぶんあちこち探し回った想い出のあるクワガタです。なかなか見つける事ができず、友達がヒラタを採ったと聞けば飛んで行き見せてもらったものですが、それらは全てヒラタではなくコクワガタの大きな個体だった事も、今となっては懐かしく思い出されます。現在では関東以北の分布地も知られているようですが、その頃の図鑑には普通種で関東・中部以南に分布としてありました。 この記述にも触発されたものですが、関東で普通に見られる地域はそれほど多くはなく子供の知識と行動範囲で採集するのは無理だった様です。普通に採集出来る地域で子供時代を過ごされた方にはそれほどの種ではないと思いますが、当時実物を見る事ができないので、名前からしてきっとずいぶん扁平なクワガタなんだろうなー、、などと想像し図鑑に載る平面的な図を眺めては悔しい思いをしたものでした。
それからずいぶん後になりあらためて虫をはじめてから、関東でヒラタが採れる場所に関して情報を聞く事もあり、また幾つか昆虫関係の雑誌に載るポイントも知りました。それらのどの場所にも足を運んだ事は無いのですが、確かに採集できる様です。その中の一つ都内某公園で採れたヒラタを幾つか見せてもらった事がありました。ただそれらは普通見かけるコクワガタより小さいものが殆どで、こんなサイズだと子供の頃に見たとしてもヒラタとは思わなかったかも知れません。

次に飼育ブームの到来。ペットショップなどにカブトムシと並んで各種クワガタムシがケースに入れられ陳列される様になって来た頃の話です。まだクワガタやカブトを専門に扱う店は殆ど無く、売られるのはペットショップなどで夏場になると昆虫コーナーが作られ日本産のクワガタやカブトが並んでいました。その頃、見た限りの形態からして八重山諸島産のサキシマヒラタと思われるものがどっと出回った事が有りました。1982-3年頃だったと記憶していますが関東地方での事で他は知りません。ものによっては結構高価な価格が提示されていましたが、在るデパートの屋上にあった店ではこのヒラタの取り扱い数が半端でなく多いので驚いた記憶があります。元々生き物好きでそれらの店は良く覗いたのですが、売られていたヒラタのサイズは60-65mmもある立派なものばかりで、それに比べ今まで見た東京産 (関東産) ヒラタはなんと小さい事か・・との印象が残ったものでした。

何しろこの種を初めて採集したのはオオクワガタの初採集よりもかなり後になってからで、どう言う訳か今までヒラタには縁が薄かったようです。
今回のヒラタ採集は東京のクワガタポイントを熟知しておられる都内(近郊)の達人!! であり、更に現在フランスはパリの達人になりつつある・・・(@@)、えいもん 氏に、「東京某所の河川敷にヒラタの良いポイントが有る」との事で案内していただき、その時に書き留めておいた少し古い (2003年3月) 採集記です。





関東のヒラタクワガタ、左から伊勢崎産55mm、木更津産41mm、横須賀産56mm。




左が東京産50mm、真ん中と右が当時ペットショップで売られていた
八重山諸島産と思われるヒラタクワガタで67-8mm。

- 久しぶりの採集へ -

朝6時頃に現地集合する事になりました。
家から掛かる時間の余裕を考えて出るのは朝の3時頃とし、途中待ち合わせはしない事にしました。採集場所は山の中ではなく東京です、正確な都内地図も有る事だしそれほど迷わず到着できるだろうと出発です。
久しぶりの採集で嬉しくて口笛吹き吹き(笑)首都高速道路をとばし予定のインターを降りて一般道路へ。ここで道を確認しようと車を止め地図を広げたのですが、懐中電灯を持ってくるのを忘れていました。最近ついに衰えて来た我が眼に車のルームライトだけでは何と細かく書かれた地図が良く見えないのであります。コンビニでパンと牛乳と懐中電灯を購入。以前、ちょっと変わった懐中電灯を見るとつい欲しくなって買いまくりでかなりの数になったのを思い出しました。(笑) それを不覚にも引越しの際にごっそりと紛失してしまったのですが、今考えると少し惜しい事をしました。話を元にもどして、、。
何とか地図を頼りに現場近くまでは来たのですが、日の出前に到着してしまったのが多少の誤算で暗い中、場所を特定することは結構厄介そうでした。しかし目印となる施設を首尾良く発見、それ程は迷わず約一時間早く無事到着、車の中で仮眠です。
目が覚めると既に明るく車を降りてあたりを見回しましたが、まず第一印象はこのような場所でそれほど沢山の虫が発生するとは思えないものでした。ほどなくえいもん氏が到着、早速ポイントを案内してもらう事になりました。
近くには住宅が密集するなんの変哲もない、台風が来て川が増水すれば全て濁流に漬かってしまう河川敷なのです。




ここのヒゲコガネ。右が♀ですが♂に比べてなかなか姿を現さないそうです。



ヒメマイマイカブり。


- どんな虫が -

ここには、ヒラタ、コクワ、ノコギリ、が確実に分布しており、成虫が出現する時期には全て採集する事ができ、更にカブトムシ、ヒメマイマイカブリ、カミキリ数種、ヒゲコガネ、その他などが生息しているそうです。
土手を降りるとそれほど広くない範囲に幾つかの流木と思われる材の山が有りました。流木を片付ける為、集められたものらしいですが、まずはその中の良さそうな材を探す事にします。開始してすぐにえいもん 氏がヒラタの幼虫を見つけました。ここで採集した幼虫を見ていくうち、かなり正確にヒラタを同定できるまでになったそうです。私も幼虫は幾つか出しましたがヒラタをすぐに正確に同定するのは無理です。とりあえず大きめの幼虫を確保ですが、多分みんなコクワのようでした。
狙いの一つだった越冬中のヒメマイマイカブリも結構頻繁に出てきましたが、この虫がここでは割と硬い乾燥した材に入ってることが多い印象です。そうこうするうちに、ピーコ 氏、もぐどん氏、あきんこ氏も到着し皆で和気藹々の採集となりました。




流木を調べるピーコ氏。ここで発生するヒゲコガネの観察を
継続されているそうで、発生時期に案内していただき
興味深い生態を見ることができて、大変感謝です。



えいもん氏と、材の部分を調べるもぐどん氏。

- 出たーっ沢山幼虫 -

しばらくして流木を積んである場所からは少し離れたところに直径が25cm程度で長さ2.5m位の朽木を発見しました。斜めに隣の木に倒れ掛かった状態でしたが、根元が土中に4-50cm埋まっています。ヒラタ幼虫はやはり土に埋まった部分が狙い目でしょうか !!
手で前後に揺らすと何とか抜けそうだった為、削る前にまず試してみる事にしました。立ち枯れが何らかの理由で途中から折れたらしく埋まっていた部分は根ではなく、土はやわらかく割りと簡単に抜くことができました。そしてその痕の穴を覗き込むと何と土中に幼虫のお尻が幾つか見える・・ !! その部分は、幼虫に齧られた材が土と混じったフレーク状になって残っていて、その中に幼虫が沢山いたのです。材の部分にも幾つか幼虫が見えていましたが、フレーク状になった部分から出て来た幼虫だけで持って来た2コのタッパーは殆どいっぱいです。




- 目的達成 ヒラタ幼虫だった -

これほど多数で密集してはいませんでしたが、このような状態はミヤマやノコギリの採集で経験した事があり、これはヒラタではなくノコギリの幼虫ではないかと一抹の不安がよぎりました。いやノコギリも好きだし・・だったとしても嬉しいのですが今回はヒラタが本命です。手で簡単に掘って次々と出たのは丸々と太って結構大きい幼虫でした。頭部の色はノコほど赤くはない様に見えるのですが、こんなに採れちゃって(笑)果たしてヒラタの幼虫・・? 
ほどなく様子を見に来たえいもん氏にタッパーを渡しました。それからしばらく中の幼虫達をじーっと・・・見ていたのですが「これらは間違いなくヒラタの幼虫である」との嬉しいお墨付きを貰ったのです。初のヒラタ材採集で成虫は出なかったものの予想以上の出来です。この場所だけで十分な数を確保、持ち帰るヒラタ幼虫はこれで打ち止めとしました。(嬉)
バトンタッチしてえいもん氏が土中の状態を、もぐどん氏が材の部分を調べると更に沢山の幼虫と、越年したと思われるヒラタ成虫♀一頭、おまけにカミキリの幼虫も結構な数出てきました。結局この土に埋まっていた25cm×50cm程度の材部分と、そのすぐ周りの土混じりのフレークからヒラタ3齢幼虫だけでも50頭近い数になりました。自然の状態でこんなに密集したこれほど沢山の幼虫を見たのは今回初めて、これから先もこんなのは多分お目にかかれないでしょう。ブリードしてもこの様には中々ならないと思います。あまりの棲息密度にただあきれるばかりでした。この幼虫の数と材の大きさや状態からすると全てが蛹化し羽化するのは到底不可能に思えます。このままにしておいても無事羽化できる個体はかなり少ないのではないか・・? と、皆の一致した意見でした。




この状態の中から3齢だけでも50頭のヒラタ幼虫が出て来ました。永らく採集していると
色々有りますがこんなに密集したクワガタ幼虫を見たのは初めての事でした。


- この虫の濃さはなんだ -

午前9時頃までの採集で全員それぞれに一段落ついた様子でしたが、更にえいもん氏から合流すると伺っていた、P.Kawadai氏が丁度その頃到着し加わりました。P.Kawadai氏は日本産甲虫に精通されており、色々と面白い虫の話に皆で盛り上がり楽しい時間が持てた事もとても良い想い出となりました。
こんなに虫が濃いポイントもそう多くはないでしょう。何しろ今までこれほど密集するクワガタ幼虫を見たのは初めての事で、それも都市部でこんな場所が有るとは全く予想を越えたものでした。
今回の東京産ヒラタ採集はこのように驚きの結果のうちに無事終了です。 同行させていただきとても楽しい採集となり、皆さん大変サンクスでした。




このヒラタが集中するフィールドに以前より何度も足を運ばれている、えいもん 氏の話では、ヒラタ成虫は木の樹液・洞での採集が主で♀成虫は材からも幾つか出たそうですが、、材にあれだけの幼虫がいるのに蛹室内の♂新成虫は滅多に見つからないそうです。また高い棲息密度の為、材の中ではなくノコギリの様に土の中に蛹室を作っている可能性もあると考え、地中も調べたそうですが土中に蛹室や♂新成虫を見つけた事はまだないそうです。やはり幼虫のうち無事新成虫にまでなれるのはかなり少数かも・・?
次に持ち帰った幼虫達のその後です。今回採集できた幼虫のサイズは経験としてあくまで見た感じですが、オオクワの幼虫ならば55mmから60mm弱にはなりそうなものも含まれていました。発酵フレークを詰めた容器に一頭づつ入れて飼育を始めてから3-4ヶ月で全て蛹化し羽化しましたが、羽化してきたヒラタのサイズはそれほどでもなく最大で52mm程度でした。勿論ヒラタの幼虫は初の採集でしたが、人からいただてヒラタ幼虫を飼育した経験は少ないながら有りました。その頃はこれほど幼虫が縮む印象は持っていなかったのですが今回採集した幼虫達は採集ショックの為か? かなり縮んでしまったようです。期待したサイズには届きませんでした。




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