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かくして、私はマダラクワガタやツヤハダクワガタとの対話を求
めて、サクサクと赤枯れした倒木と向き合うのだが、一向に待ち
人(虫)は現れてくれないのである。そんな私をなだめ賺すかのよ
うに、ヒサゴゴミムシダマシが現れるのである。ちなみに今回は
16頭もの有志が、そろそろ諦めて帰らんかい!と助言をくれた。 
 なかなかどうして、昆虫採集とはむずかしいものである。だから
こそ面白いのであろうが、こうも振られ続けるのも、ちと辛いもの
がある。今日もまたダメだったか・・と、ほぼ諦めて林道を下るの
もいつものこととなった。
 まあいい、なんであれ今回もまたムシやブナに会えたではない
か。そう思えるようになれば立派なものである。もう大人と言って
良いだろう。中には”これ以上削ったって、何も出やしませんぜ”と
言うほど滅多クソに削ってしまう輩もいる。はっきり言って申し訳
ないが、クワガタ屋の極々一部の熱狂的な採集マニアに良くみる
姿である。ターゲットのクワガタしか見えていない、なんとも愚かし
い採集者である。彼等はあたかもハンター気取りで斧を振るう。
 森はたくさんの命で溢れている。だからそんな彼等の営みを、つ
ぶさに垣間見させてもらうのも採集のたのしみのひとつにしたいも
のである。
 自分がターゲットにしていない虫であっても、実はターゲットにし
ている虫と密接に関係していたりすることも、虫の世界では多々
ある。例えば、デバヒラタムシ。この虫は斧でザクザク削ったので
は到底見付けることは出来ない。大きさが5〜7mmしかないので
ある。
 そっと朽ちた樹皮を剥がすと、いたりする。なんてことはない虫
だが、実はこのデバヒラタムシ、すこぶるツヤハダと相性がいいの
である。っと言うことは、この虫がいる材には、高確率でツヤハダ
もいる可能性があったりする。もちろん、ツヤハダとマダラはこちら
もまた、相性がピッタリだったりなんかする訳だ。つまり、樹皮下で
デバヒラタムシを見付けたら、いろいろリーチが掛かっている訳で
、そんな材は斧でザクザクやってはいけないのである。あとはや
さしく慎重に、削ぐが如く削っていくのみなのだ。
 するとどうだ。え!ホントに出ちゃったの?って自分でも驚いた
りなんかする。う〜ん、昆虫採集っておもしろい!っとなる訳だ。 
 かくしてツヤハダクワガタとの対話は実現した。あとはマダラクワ
ガタあるのみ。恋慕の思いでナイフにそっとチカラを込める。


・・ぶすっ!


『あぁ〜!やっちゃった〜。』


なんて事にならないように、慎重に慎重に刃先を進める。こうして
いても、やっちゃうときはブッスリやってしまうのだから、到底恐ろ
しくて斧なんて振り下ろせないのである。
 しばらくして、小さな空間が現れた。どんな虫を探していてもそう
なのだが、この瞬間が一番アドレナリンの分泌を促す。果たして、
この空間に虫は存在するのか。そう思いながら慎重に刃先を進め
ると・・。
 いたいた。お目当ての昆虫が、静かに冬が過ぎて行くのを待っ
ていた。ようやく会えた。そんな感じの採集であった。
 マダラクワガタはなんてことはないクワガタムシの普通種なのだ
が、苦労して出会えたマダラクワガタは、オオクワガタをはじめて
手にしたときの感動に少しも劣ることはなかった。
 とりあえずこれで、栃木県のクワガタムシの棲息は全種確認が
できたことになる。・・と思いきや、マグソクワガタの採集事例が既
にあったりする。なかなかどうして。こちらも手強そうですぞ。

                                END

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