5.4.3 求愛、ライバルとの戦い、そして交尾

クワガタ(Lucanus cervus)の繁殖行動は、雌が特にカシやブナの樹液を求め、あるいは自らそれを出させるという事によって導かれる。そこで

雌は雄と出会うのである。雄は夕暮れの暗闇の中を飛んで来て(時には5kmも離れた所から)、しばしば雌1匹の回りに数匹にもなる。

J.H.FABREは金網籠の中に雌を入れて雄を呼び寄せてみた。この際誘引物質(フェロモン)がどの程度までの役割を果たしているのかは今に至

るもよくわかっていない。非常に有り得るように思われるのは、TOCHTERMANN(1992)が実験で示唆しているように、カシの樹液の内容物(カシ

のタンニン酸)が一つの役割を果たしているという事である。JACOBS&RENNER(1974)の報告によれば、雌は食事の際に排泄物を出し、これが

匂い物質に何らかの雄を引き寄せる効果を与えている可能性があるという事である。両性の音を処理する能力については同様の機能を持って

いるようだ(触覚の第一節にある聴覚器官は例えばキツツキのような天敵を遅滞なく認識するのにも役に立つであろう)。この関係については、

ESCHERICH(1923)によって引用されているものがおそらく興味を引くであろう。「雄がいかに雌に夢中になるかについては、HAABERが記述し

ているが、彼は生きた雌を木の幹に固定し、2時間半の間に少なくとも75匹の飛んで来た雄を捕まえる事ができた。」
 

TIPMANN(1954)によれば、「スロベニア地方の古いカシの森では、いわゆるクワガタだらけの木というものがそう珍しくなく見つかり、そこではよ

く100以上ものあらゆる大きさの雄が数えられるが雌は非常に少ない」という。そうしてしばしば雄同志の戦いになり、多くのものがそれに参加

する。もちろん大きなアゴを持った大きな個体が有利である。雌は戦わず、せいぜい非常にわずかに餌場をめぐって行う程度である。

SCHAUFUSS(1916)は、複数の雌が一匹の雄をめぐって戦っているのを観察している。
 

雄のクワガタの戦いはしばしば記述され、描かれている(図45)(MATHIEU1969)。KAESTNER(1973)はそのような戦いを次のように記述してい

る。「”出血”している木の幹にいるクワガタの雄は、その大アゴで突撃開始をする。彼らは大アゴを使ってまるでレスラーが腕で相手を抱きか

かえるような事をしようとする。どちらか片方がそれに成功すると、激しく抵抗する相手を高く持ち上げる事によって相手はもはやその符節でし

っかりと足場につかまる事ができなくなり、木から投げ飛ばされてしまう。この際よく起こる事としては、後脚の爪でしっかりつかまってその絶望

的な防御を試みる相手に対して勝利者はその爪を失わせる結果にさせたり、後羽根に穴をあけたりしてしまうという事があるが、片方が致命

的にまで傷つくという事は決してない。」
 

TIPPMANN(1954)はやや違う記述をしている。「ガチガチ、パキンパキンというような雄の戦いの音は、静かな森では15メートルも離れた所から

聞こえる。ほとんどの場合打ち負かされた雄は目に見える損傷も無くただ幹から落とされるだけで、生き続け、戦闘能力も維持していくが、非

常に堅い相手の鞘ばねが勝利者のオオアゴの歯によって1-4度もスパッと深く穴を空けられてしまう事も珍しい事ではない。そしてそのように

なってしまった雄は奇妙な事に必ずあっという間に死んでしまう。」
 

戦いのお陰で驚異的な力が発達してきている。SLIPER(1967)によれば、クワガタは自重の100倍もの荷重を引きずる事ができるという。また

TIPPMANN(1954)も、そのオオアゴの能力について述べている。「採集同行者と私自身でもしばしば試した事だが、閉じてしまったオオアゴを

両手で開こうとしてもかなりの力を入れても決してうまくいかなかった。スロベニア地方では、この実験はそれどころか森の労働者の間で力比

べの競技として実践され練習されてきたという。技術者として私が常に驚かされて来たのは、中空のオオアゴの作りとその自然から大いなる

意味を持って与えられた断面の構造である。これはクレーンのカギでも可能な限り最大の強度を与える形で、実際このオオアゴを壊そうとして

もうまくいったという話は聞かない。」
 

勝利者は雌の上に乗り、頭を同じ方向に向ける(図46)。雄のオオアゴは雌が逃げるのを妨げる。雄はこういう姿勢で必要とあらば何日も居座

り、餌場と雌を他の雄や雌から守る。同時に上顎と舌を弓状の雌のオオアゴの間を通して伸ばし、自分も栄養分を摂取する。最後には交尾に

成功し、これは約100回も繰り返される(TOCHTERMANN1992)。TIPPMANN(1954)の観察によれば、ほとんどの交尾は餌場の近くではなく、傷

ついていないカシの幹で行われるという。
 

(図45) 戦うクワガタの雄達(Lucanus cervus)。写真:G.FRIESE

(図46) Lucanus cervus 餌場のペア:JACOBS&RENNER(1989)によるもの

 

(図47)雄のクワガタの擬死行動(文中に説明):VON LENGERKEN(1928)によるもの 戦いはまた最良の餌場をめぐっても行われる。

TIPPMANN(1954)の観察によればあるカシの20-30cmの樹液を出している裂け目において60以上の昆虫を数えられたという。Lucanus cervus(1雄3雌)、Dorcus parallelipipedus(5例)、Rhagium sycophanta(12例)、Cetonia aurata(5例)、

Cerambyx cerdo(1例)、C.scopolii(2例)、Plagionotus arcuatus(4例)、Geotrupes stercorosus 更にG.vernalis(7例)、Histerquadrimaculatus(9

例)、Lacon punctatus(1例)、Vespa crabro(2例)、Tabanusboivinus(1例)、Volucella inflata(1例)、そしてその他にも様々な小さいStaphylinidae

やNitidulidae(特にSoronia属)等がいた。新たにそこへやってきた雄のLucanus cervusは、そのオオアゴを使って一匹のクワガタと二匹のカミ

キリを横にどけてしまい、樹液の流れの中に居場所を確保した。BREHMシリーズで読む事ができるが、82平方cm程の樹液の場所で他の昆虫
に並んで24匹のクワガタが見られたという。

この事に関連して更に言及しておく価値があると思われるのは、クワガタの体の上部をこすってやると擬死、不動、硬直といった不動反応に入

る事である。ピタリと動きを止め、しばらくの間はこの姿勢のままじっと動かなくなるのである(図47)。擬死行動は例えば脚をいじってやる事によ
りすぐにまた中断される。他のタイプの擬死行動は見られないように思われる(TIPPMANN1954)。性別割合に関してはCORNELIUSに由来する

FRICKEN(1906)の報告があり、Lucanus cervusについて言及している。これによれば雌雄比は1:4であり、KUEHNEL&NEUMANN(1981)はそれ

どころか、1:6であるという。TOCHTERMANN(1992)は活動の始めには1:3から4だが3週間もすると1:1.5そして成虫活動の最後には1:0.5あるい

は0.7にまで変化していくという説を取っており、これは雄の死亡率が高い事によるとしている。

MAJUNKE(1978)は、Sinodendron cylindricumにおいて性別割合がほぼ1:1である事を発見している。
 

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