「怪説・世界のクワガタ」 第9回 ミヤマクワガタ (1)

A.CHIBA


前回に続きミヤマクワガタで今回は日本産 Lucanus maculifemoratus Motschulsky とその亜種、それに近いと思われる種を中心に紹介してみる。日本産と台湾産、それに朝鮮半島から中国、ロシアあたりに分布するものは、以前それぞれ別種とされていたが、現在は亜種として扱う事が多い。




fig1

fig1は Lucanus maculifemoratus Motschulsky ロシアの昆虫学者 V.de Motschulsky によって1861年に記載された。山地には割と普通で樹液に集まり灯火にも良く集まる。夜間だけでなく昼間樹液に来ていたり飛んでいるものも見かけ、福島県南会津郡では川沿いにかなりの高度を保ちながらミヤマ♂が飛んで行くのを目撃した事があるが、一時間ほどの間に数頭が一定方向に飛行していくのは今でも印象に残っている。産地の環境による違いも見られるのだろうが、まだ生態には良く解らない部分も有るようだ。今まで見る事の出来た生態や採集経験では本土産ミヤマの場合昼間も夜もさして活動に違いがないように見える。幼虫は広葉樹の立ち枯れ、切り株等の根の部分や埋没した朽ち木などに良く見つかり、土中から朽ち木の根の部分を摂食している事もある。ミヤマの幼虫は他のクワガタ幼虫よりも少し毛深く、頭部を正面から見ると4つの点(窪み)が横に並んでいるので他の種との区別は比較的容易。
3頭は 左から四国高知県産フジミヤマクワガタと言われる歯型のもの、真ん中は福井県産75mmの蝦夷型大型個体。一番右は福島県桧枝岐産の基本型個体で70mm。この三つの型は♀では区別が出来ない。また、小型個体でもほとんど区別がつかなくなり、大型でも中間型のような区別のつきにくい型もいるようである。体色が赤っぽいものや黒いものもいるが黒化型個体は少ない。サイズは最大でも80mmに達する事はないようで70mmを超える個体も多くはない。今回図示出来なかったが伊豆諸島産は Lucanus maculifemoratus adachii Tsukawaki とされる。




fig2

次fig2の左、Lucanus maculifemoratus dybowskyi 大韓民国産。朝鮮半島から、中国北部、ロシアあたりに分布するとされている。日本産に良く似ているが日本産には頭部前方に上向きの突起がありこちらはそれを欠く。あとは歯型が違うぐらいの相違しかなく♀も区別するのは難しい。最大サイズも日本産より大きいものがいるとも聞くが、今まで見た個体ではそれほど差は無いように感じる。
真ん中は中国四川省我眉山で 採集されたもの Lucanus maculifemoratus boileaui とされているが、図鑑などの写真や実物の標本を見ても L. maculifemoratus dybowskyi との違いは良く分からない。分布は中国四川省、雲南省、湖北省。
一番右のものは中国四川省大飛水産で、大顎は前種と比べて湾曲しており、足は黄色(黄色が強い)である。DIDIERの Lucanus boileauis PLANET 1897 チベット産としてある図を見ると、この個体に良く似ている。


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