5.4 成虫

5.4.1 養分の摂取

我々の知る様々なクワガタは典型的には(Lucanus cervus, Platycerus caprea,Sinodendron cylindricumにおいて観察)、成虫はカシ(または

Lucanus cervusの場合栗も)の傷口から流れる樹液を摂取している。そうした樹液の浸出は大抵の場合霜によるひび割れ、風による枝折れ、

落雷などによって引き起こされる。それらが存在する期間は植物の成長期間だけの場合から数年に及ぶものまである。こうしたカシの粘液質

の樹液中においては、様々な子嚢菌(酵母やカビ等)が繁殖し、それ自身が栄養分として実質的に影響を与えている(MOELLER1990)。こうし

た場所には時折、多かれ少なかれ大きなクワガタその他の昆虫が集まって来る事があり、その中にはカシの樹液にだけ見られるような特殊な

ものもいくつかいる。例えば、Epuraea guttata, E.fuscicollis, Soronia punctatissima, Cryptarcha, C.undata (Nitidulidae), Thamiaraea

cinnamomea,T.hosipita (Staphylinidae)(MOELLER1990)などである。樹皮から流れる樹液を摂取するのには、上アゴとクチビル[舌?]を使って

舐めるという方法を取る。Lucanus cervusにおける一日あたりの要求養分は20から30立方ミリメートルとされる(TOCHTERMANN1992)。

炭水化物に富んだ樹液は、キノコ類の働きによって時折発酵し、やがてアルコールとなる。
 

HORION(1949)は、クワガタがこのような樹液を摂取する際の行動について、観察の正確性に関していくばくかの疑いを持ってRECO(1938)を引
用している。「まず彼らは大喧嘩を始め、それからふらふらと木から下に落ち、可笑しな様子で片方の足、そしてまた別の足ですぐに立とうと

し、また何度も別のものにひっくり返され、とうとう最後には暴れるのを止めておとなしくなってしまう。」いずれにしても彼らは、次第に鳥に対す

る防御能力を失っていき、TOCHTERMANN(1992)が示したところによれば、彼はたった一本のこうした木でキツツキによって殺されていた24の

雄と4の雌を見つけたという。
 

このような傷口は時には大アゴを使って自ら作るという事もある。特にLucanus cervusの雌はカシに対してそうする事が知られている。また、ク
ワガタの雄がその大アゴを使って例えば何度も向かって飛んで来たり細い枝の所で体をひねる事によってアゴの歯がぶつかり、カシの枝を傷

つけるという事も報告されていないわけではない(HOCHGREVE1934)。

いずれにせよ、前者の話は著者にとってもいささかありえそうも無い話に見え、実際に観察された事はない。おそらくは伝説に過ぎないのでは

ないだろうか。次の行動もどうも意味が間違って伝えられているようで、TIPPMANN(1954)も飛行している雄のクワガタがその大アゴで細い若

枝を挟み、そこに留まり、飛行に要した空気量をどうやら補充し、続いて落ちるにまかせた後、以後の飛行を続けるのを観察している。
 

また昆虫の体液も時には成虫の栄養分として与えられうる(ERICHSON 1848, SCHAUFUSS 1916)(カラー図1参照)。インセクタリウムの中で

は、L.cervusには様々な砂糖水で栄養を与える事ができる。アルコールを含むジュースは、彼らには特に好まれるが、繁殖や活動能力を考え

た場合はむしろマイナスの効果がある。特に具合がいいのは中をくり抜いたリンゴ(ビタミン強化)にアルコール無しの麦芽ビールを入れたもの

である(TOCHTERMANN1992)。ALLENSPACH(1970)はこれらを熟したサクランボで観察している。
 

樹液と並んで、Platycerusの仲間はまた落葉植物の若い葉に取り付き、その若芽に噛りつく。とりわけ春に成長中のカシややまならしの花芽

ではよく見つかる。これらは時には害虫とさえ見なされる。ESCHERICH 1923, SORAUER 1954, SCHWERDTFEGER 1970の報告によるが、今

日では少々想像し難い事である。RATZEBURG(1839)は、「花芽は激しく食害され、ほとんど手に残して触れる事ができない程であった」と

書いている。これに関してKALTENBACH(1874)は「Lucanus caraboides」の中で、「RATZEBURG(1839)によれば、この甲虫はカシややまならし
の花芽や若い葉を食害する。私はこれを5月や6月に潅木状のカシにおいてのみ見つけている。この甲虫は、しばしば破壊的な数でとねりこ、

いぼた属の木(=Liguster Ligustrum vulgare), スペインすいかずら(=Syringa vulgaris), またGeisblatt[なんだかわからん](特にLonicera

tatarica)や西洋にわとこ、楓、ポプラ、バラ、でさえも見つかり、その葉を食害する。
 

NIKLAS(1974)は、ルーマニアのDorcus parallelipipedusの成虫は葉を食している所が見つかっており、若いポプラの樹皮の食害によって害虫

と見なされる事さえあると指摘している(ROTTEMBURG「Lep., Sesiidae」、Bremsenglasfluegle[カカシバガの一種?]Parantherene tabaniformis

等の害虫、穴あけ食害)。

1 Lucanus cervus, 枯れたエスクラープナター(Elaphe longissima)で、アリと共に
 養分摂取をしていた雄:写真、H.RIETZSCH
2 Dorcus parallelipipedus, ブナ材にいた雄:写真、H.RIETZSCH
3 Aesalus scarabaeoides, カシ材中の蛹室にいた雄:写真、H.RIETZSCH
4 Ceruchus chrysomelinus, 赤腐れしたドイツトウヒ内の蛹室にいた雄:写真、H.
 RIETZCH
 

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