9 危機と保護

ドイツ、そしてまたその他多くのヨーロッパの国々で、Lucanus cervusは当然の事として法律で保護されている。

ドイツでは、1935年以来帝国自然保護法によって保護されている。大体今世紀の始まり頃からクワガタは一貫して減少してきた事が見てとれ

るが(図50)、これは更にあちこちでその種の絶滅につながっている。

いくつかのLokalfaunen[地方新聞?]は、以前はそれがいかに沢山いたかについてのニュースを載せている。

これは他のクワガタについても言える(表11を比較)。クワガタの減少を嘆く声はしばしば一世紀も前から聞かれていたもので、既に1881年には

例えばALTUMが、「枯れ木の伐採によってこれらの甲虫はだんだん減って来ている。」と書いている。

「残念ながら我々は今日に至るまで、クワガタの減少の原因がどこにあるのかについては十分に知り得たとは言えない。そこで我々はとりあえ

ず暫定的にこの鎖の終わりから保護を始めるのである。誰もクワガタを捕まえず、それどころかこれを商用にしてはならない事になれば、それ

は疑いもなく甲虫の存続を維持するのに役立つのである。

(図50) 南北シュペッサート[ドイツの山地]におけるLucanus cervusの減少。
森林・原野2000ヘクタールあたりの生息数。TOCHTERMANN(1987)による。

Larven = 幼虫 Kaefer = 甲虫(ここでは成虫の意味)
Hochspessart, Maintalは地名

 

文献では、産卵床を取り除いてしまう事が減少の主たる原因であるという事に、多くの示唆を見出す事ができる。HEMPEL&SCHIEMENZ(1978)

の示唆するところによれば、Lucanus cervusの減少の実体的な原因は、林業の推進にあるという事である。つまり、深く土壌を耕し、切り株を

掘り起こし、輪伐期が短く成長の早い樹種を植え、皆伐経済主義等で、これについてはSCHERF(1985)もまた指摘している。またHARDE(1975)

も古い切り株の掘り起こしを極めて悪性の行為とみなしており、FREUDE(1971)とJACOBS&RENNER(1989)は腐りかけた広葉樹の除去がいけ

ないと見ている。HORION(1949)はこの関係を更に深いものと捉え、次のように書いている。「クワガタやその他数多くの落葉広葉樹に生きる虫

が消えてしまうのは、我々の森林の広葉樹の数が常に一方的に針葉樹植樹推進に譲り続けて来なければならなかった事によるのであり、ま

た根や幹のついた全ての古い根、切り株は根こそぎ開墾されなければならないとか、全ての落葉広葉樹特にカシとブナが残っていてもほんの

少しでも腐りかけた部分があれば即刻切り倒されてしまうとかいう事のためである。」発生場所の消滅がこうした行為の結果である事は益々

持って証明されて来ている。これほどしばしば要求されているビオトープ(生態系環境)保護を更に実現していくためのあらゆる努力は、従ってな

んとしても推進されなければならない。天然記念物や地表天然記念物として適切な環境を保護する事や、カシの老木をオスメスの出会いの場

所として維持していく事、そして殺虫剤の蓄積を避ける事等である。
 

我々の知る限りはクワガタはわずかな繁殖力しか持っていない。産卵に適した場所が失われた場合、彼らが繁殖のための飛行によってそれを

補える度合いは非常に限られている。適切な産卵木がその環境に存在していた場合でさえも、それにたどり着く事ができない場合が多々あ

る。これ以上存在している群れを孤立化させたり離してしまうような事は、避けなければならない。Lucanus cervusの減少のもう一つの理由

は、成虫に取っての栄養(あるいは水分)の不足(樹液)であるかも知れない。こうした場所は成虫が熟成し、またオスメスが出会う為に絶対的に

必要である。

(表11) 様々なレッドリスト中のクワガタのそれぞれの種の格付け。
略称は
BR = Brandenburg (SCHULZE 1992)( 1 / = Berlin: MOELLER&SCHNEIDER 1991)
BW = Baden-Wuerttemberg
BY = Bayern (GEISER 1992)
D  = Deutschland (GEISER 1984)
HE = Hesse
MV = Mecklenburg-Vorpommern (ROESSNER 1993)
NI = Niedersachsen (Bremenを含む)
NW = Nordrhein-Westfalen
RP = Rheinland-Pfalz
SH = Schleswig-Holstein (ZIEGLER 及びその他 1994)
SL = Saarland
SN = Sachsen (KLAUSNITZER b版にて)
ST = Sachsen-Anhalt (MALCHAU 文献中)
TH = Thueringen (CONRAD 1993)

記載されている数字はそれぞれのカテゴリーを表し、それぞれの中では多少異なった解釈がなされている場合もあるが、大体次のように理解する事ができる。

0 = 絶滅あるいは発見不能
1 = 絶滅が迫っている
2 = 非常に危機的
3 = 危機的
4 = 危機的に成り得る

(90p 最下段落から続き)

いくつかの地方においては、クワガタ(Lucanus cervus)は過去数十年の間に再び良く見られるようにもなっており、ある一定の割合で観察され

ている。NADOLSKI(1976)がCottbus(Land Brandenburg)の環境における観察作業について公表しているが、こうした数字は慎重な楽観主義を

以って考察されるべきである。その後彼は毎年200から1000もの例を数えているが、例えば 1975年には425頭の雌を観察している。

KUEHNEL&NEUMANN(1981)によれば、STIELER1964はRaguhn(Land Sachsen-Anhalt)において1.5kmの距離で126頭の雄雌のクワガタを見

つけたという(これは木1本あたり8から10頭の虫に相当する)。しかし我々はこうした数字の陰に隠れていてはならない!

TOCHTERMANN(1987、1992)は、Freiland[地名?自由な土地?]においていかにLucanus cervusを保護し、それによって維持していけるかとい

う問題に集中して取り組んだ。彼の「シュペッサートモデル」は今日では益々広く知られるようになっており、喜ばしい事にあちこちで実践されて

いる。この前提となっているのは、周囲2、3キロのまだクワガタが生息している近隣の場所である。ここでは「クワガタのゆりかご」が設置され

る(図51-53)。

それには次のような各事項がある(TOCHTERMANN1992による)。

- 最低3-5立方メートルのカシの樹冠の梢、カシの樹皮、カシの屑、ノコ屑、更に腐ったカシの幹のかけらからなる山を、古いカシの切り株の上に築く。
これらには5年毎に2-3立方メートルの木屑を補うものとする。幼虫はこの山の地中部分で生活し、地表部分は、地中で使われた物質の補給用としての役割を果たす。

- 水はけの良い地中のノコ屑で満たした穴に貯えられた、30cm以上の太さのカシの幹のかけらからなるピラミッドを作る。

- 腐ったカシの幹を半分埋める(直径は40cm以上、長さ3m以上)。

- 「クワガタのゆりかご」を明るい古いカシの森の南東側、平地を挟んで1-2km離れて存在する中程度の湿度を持ったところに設置する。

- 「クワガタのゆりかご」はイノシシ、アナグマ、キツツキ、そしてまた人間による破壊から守られなければならない。

(図51) 「クワガタのゆりかご」の模式。TOCHTERMANN(1987)による。

地上・3-5立方メートルの梢の屑
・イノシシ、アナグマ、キツツキや人間から守るためのうねり
・梢屑が腐るように切り株の根の上に乗せるカシの腐った屑

地下
・腐った切り株の根
・極端な霜や乾燥からでも生き残れる可能性を残す
・栄養不足から守る可能性を残す
 
(図52)

Nordrhein-Westfalen、ArnsbergのV.BOESELAGER男爵の個人所有の森に、「クワガタのゆりかご」の準備の為に掘り出された地面の穴(直径3m、深さ0.5m)。地表には約10cmのキノコに感染させたカシの屑の層が見える。
写真:TOCHTERMANN

(図53)

同じ森の完成した「クワガタのゆりかご」(Meiler)。カシの切り株(カシのうねり)の隙間は、カシのノコ屑で満たされる。写真:TOCHTERMANN

また更に追求されるべき問題点としては、人工的な住居をそれぞれの種について適切な環境を以って用意していけるのか、どんな条件下においてそのような地域から群れの移動が促され、うまくいくのか、といった事があり、非常に激しい変動も視野に入れておく必要がある。
 

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