5.4.2 飛行活動と飛行時間

中央ヨーロッパのクワガタ類の中には日中活動するものと夜あるいは夜明け時に活動的になるものとがある。活動や飛行時間というものは、

その地方によってはっきり確実に異なっている。成虫はその一生のほとんどの部分を土中に潜む事によって過ごすのであり、自由な空間に出

て過ごす時間は比較的短い。飛行に関して言えば、日中活動するタイプには真昼の時間帯が、そして夜明けや夜中に活動するタイプにとって

は暖かい天候条件が優先される。夏前(5月や6月)の日照の下では、Platycerus caprea (四月の終わりから6月の終わりまで)が飛び、同様

に振る舞うものとして、P.caraboides(四月の終わりから7月の終わりまで)がある。またCeruchus chrysomelinusは日中活動型であり6・7月

に日照の中で飛ぶ。Sinodendron cylindricumは、薄明かりで活動するタイプで、6月の始めから7月の終わりまでの夕暮れに飛ぶ。Aesalus

scarabaeoidesは新たな産卵場所を求めて夜にその発生場所を飛び去る。Dorcus parallelipiledusは、日中及び夜型の両方であるように思わ

れる(7月始めから8月終わりまで)。Lucanus cervusは6月始めから8月半ばまでもっぱら薄明かりないしは夜型として活動する。飛び立つ際

には高い位置に確保された場所を求め、6月・7月の蒸し暑い暖かい夜に時折樹冠のあたりで熱狂し、大きな羽音をたてながらほとんど垂直

に立った姿勢で人工的な光の下へと飛んで来る(街灯、以前は輝く炭焼きの場所へも)。どうやらクワガタは薄明かりの中では良く見えないよ

うで、障害物は遅くになって認識され、迂回飛行がなされる。「飛行は必ずしも優雅とは言えず、比較的ゆっくりである。大抵は地表に近い所に
落ち着き、希に6ー8mの高さに達し、盆地を超えて飛ぶ場合のみこの甲虫はより高い位置へと達するのである(NUESSLER1967)。」我々の知
るクワガタは時折は明るい日照の下でも飛ぶ事がある。

他の国々においては、時折システマティックに人工の光の下で捕獲される。WEINREICH(1971)の報告によれば、北スマトラでの一回の灯火採
集で27種類、139の個体を得ている。特によく光に集まるのは、Lucanus及びPseudolucanusの属である。
 

Lucanus cervusの飛行速度と飛行継続時間については、TOCHTERMANN(1992)が示している。飛行速度6.9km/hに達したのは11時から13

時の間だけで、だんだん弱くなりながら更に19時から21時まで続いた(表10)。1匹の虫は、一回の飛行に約0.02立方ミリメートルの砂糖水を要

するという(TOCHTERMANN1992)。

表10 Lucanus cervusの飛行速度(km/h)、飛行継続時間(分)、飛行距離(m)。
TOCHTERMANN の調べによる。

 
飛行活動は季節的には明らかにかなり限られたもので、実際の天候にかなり依存する。文献に示される飛行季節は、従って実際に成虫がそ

うした活動をする可能な時間よりも長くなっていると見るべきである。

四月から六月 :Aesalus
五月から八月 :Dorcus,Lucanus(中心となる飛行季節は六月半ばから七月終わり)
六月から七月 :Sinodendron,Ceruchus

さてここで、さらにもう一つのLucanus cervusの特色というべきものが、ANT(1973)によって叙述され、KUEHNEL&NEUMANN(1981)からの引用

によっても繰り返されよう。「比較的大型のクワガタが出現する場所及びクワガタの墓場の近くには、地中に比較的大きな穴がしばしば見つか

る(直径はクワガタ自身よりやや大きい程度)のである。これは30程の数の穴まで確認され、これらは少し深くなっている地中の穴への入り口と

なっている。これは更に地中に垂直に10cm程も続き、最後には行き止まりとなっている。クワガタはこうした穴をその大アゴで掘り、土は脚で

後ろへ移動させられる。土中の穴では雄と雌がいる。クワガタにおいては必要となる湿度がかなりのもののようで、おそらくはこうした行動は湿

った土を得る為のものであるように思われる。」これに関連してGRASER(1990)は、Dorcus parallelipipedusの雌も産卵場所を探す際には浅い

水たまりを横切る事をやはり厭わないという事を示唆している。

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