はじめに

これを書いているのは1998年8月19日。マレーシアから帰ってきたのが16日であるから、わずか3日前のことなのだが、どういうものか、ずいぶん前のことだった気がする。思えばかなり濃密な3日間であった。

 マレーシアにはどうしても一度行っておきたかった。曰わく、昆虫採集のメッカだとか...去年の2月頃にクワガタ熱が再発しかけた頃、一度ドラゴン氏のお宅におじゃましたことがある。そこで怒濤の昆虫の標本群を見せていただいたのだが、そのときマレーシアと言う国名(それとキャメロンハイランドという地名)が私のさして多くはない脳の皺に深く深く刻まれたのである。

 マレーシア(採集)旅行に関しては、もちろん家族会議にもかけてみたのだが、「私たちはその間何してればいいの?」などととても相手にしてもらえないし、 イースターホリデーに一人で行って来て良いかに問うてみたところ、 「じゃあ私たちその間、ペニンシュラに泊まるわね。」と言うので計画を練っていると、「まさかほんとに行くんじゃないでしょうね!」とおっしゃるのである。 (当たり前か)
 それ以来、ずっと熱にうなされるような状態が続いていたのであるが、今年8月に3連休があるのを発見(しかも日本も休みなのでがたがた言われることもないし)、ふと奥方には恒例の日本での夏休みを長めに取っていただいて、その間に行けばどうか? と思いたったのである。条件さえそろえば金なんか問題ではない、マレーシアなんか安いもの、きょうび日本に帰る方がず−−−っと高いのである。(国内旅行も似たようなもんじゃないですかね?)

 そう思い立っていろいろ情報を集めだしたのであるが、なかなか身近には昆虫採集の情報がない。そこで前述の氏(師)にいろいろとレクチャーを乞う事になった。すると師は懇切丁寧な採集地図を書いて下さった上で、「今の季節にはテナガコガネが採れますよ、 」とか「今年はオオゴンオニクワガタが沢山捕れてるらしいですよ」とか 「キャメロン行けばコーカサス、採れるでしょう。」などと仰るのであった。

 そこですっかりその気になり、7月に日本に一時帰国して、友人たちと飲んだ際、マレーシアの話を持ち出したところ、「一緒に行きたい」と言いだしたのが K と Y である。結果として Y は帰国便が合わず、香港まで来ながら我々二人を香港国際空港でむなしく見送ったのではあるが。
 
 一緒に行った友人 K は此の3日間を称して、“血湧き肉踊る愛と感動のスペクタクル、マレーシア昆虫採集旅行”と言い、しかも、帰ってきてからもずいぶんテンションが高かった。昆虫そのものには「ふーん。」と言うくらいの感想しか持たなかった男なのにである。確かにマレーシア(特にキャメロンハイランド)には人をして何か興奮させるものがある。

 今回の旅行では、空港からキャメロンハイランドまで、レンタカーを使ったのであるが、予想外に時間が掛かったため、現地には正味24時間しか滞在できなかった。しかも行きがけ、前方に稲光は見えるわ、途中の峠道では倒木が道を塞いでいるわ、霧は出るわ、着いたとたんに雨は降るわ、ずいぶん滅入ったものである。

 しかし結果から言うと、それほど悲観するほどのものではなかった。少なくともゼロではなかったのである。


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