美しい死体処理方法入門(4) 

ラベルの記入について & 特別公開!鈴村勝彦氏の展足法

k−sugano


標本にはラベルをつけるのだが、ラベルに記入すべき事項にはどんなものが考えられるだろう。
1)種名
2)産地(採集地)
3)採集日
4)採集者
まあ、こんなものがざっと思い付く。釣りの場合だと現認者とかがあるようだが、虫の場合はそんなものはいらない。

飼育品の場合はどうだろうか?
採集日というのは当然のことながら不要(というか無い)。採集者の代わりは飼育者だな。
かわってクワガタの場合であれば、孵化日・亜終令への脱皮日・終令への変態日・蛹化日・羽化日などが考えられる。遺伝に感心のある人なら親を判別するために両親の個体番号を書いたりすることも考えられる。
蝶の場合でもそのようにこまめにラベルを書く人がいるようで、中には蛹の脱皮殻まで台紙に張って標本の傍らに並べるというひとがいるそうだが、まあ、普通はそんなことしないわなあ(^^;;

では、記入すべき事項について順次検討してくが、その前に実際のラベル例を見よう。

ラベル例−1
(アンタエウス:インド)

ラベル例−2
(ヨーロッパミヤマ:イタリー)

ラベル例−3
(中国ヒラタ:四川省)


1.種名

ラベル名で分かるように、例1と例3では種名(学名)の記載がない。

実は種名というのはころころと変わるものなのである。また同定者(普通アマチュアであればすなわち自分)が間違えることもあるので、ラベルに書いてあったとしてもそれはすなわち真実とは限らない。

学名表記ではなく、たとえば国産のミヤマクワガタに「ミヤマクワガタ」と和名を表記することでは通常誤ることはないだろうし、学名が変更になっても和名表記には普通影響がないから問題はないが、だいたい「ミヤマクワガタ」などは書かなくても判るものだから、初めから書く必要がないとも言える。

学名の変更について例をあげると、従来「オオクワガタ」は Dorcus curvidens hopei とされていたものが、「大図鑑」以後、Dorcus curvidens binodulosus となっていることを見ればわかるであろう。いちいちラベルの学名を書き換えるのは大変だ!

ということで、ラベルの書き方その1

種名は書く必要がない

2.産地

次に産地である。この産地というのは非常に重要。分布などを調べるために後日非常に役立つものである。ラベルに記載される事項の中で最も重要であると言っても過言ではない。

ラベル例の1−3でもしっかりと書いてあるね。(あっ!2についてはイタリア語がわかんないが多分書いているのであろう(^^;;)

ラベル例−4
(パルナシウスの例)

ラベル例の4はパルナシウス(ウスバアゲハ)の2例である。標高はもちろん、上段のカザフスタン共和国の例では北緯と東経まで書いてある。この属は山岳地帯に多く、たとえば都市とか村とかの名前で表記できないところもあるのでこのように書いているのであろうか。

産地が非常に大事なことはお分かりになったと思う。さて、日本産を例に取るとどのように表記すれば良いのか?

1)三草山
2)兵庫県三草山
3)兵庫県猪名川町三草山
4)兵庫県川辺郡猪名川町三草山
5)兵庫県川辺郡猪名川町上阿古谷三草山
これはどれもオオクワガタの有名産地である「三草山」を表現したものであるが1)から5)のどれが○でどれが×なのだろうか?

答えは

 × 1)三草山
 × 2)兵庫県三草山
 × 3)兵庫県猪名川町三草山
 ○ 4)兵庫県川辺郡猪名川町三草山
 ○ 5)兵庫県川辺郡猪名川町上阿古谷三草山
1)では、「 三草山」とだけ書いてるが、「三草山」は能勢以外にも全国各地にあるので×

2)も同様の理由である。「鉢伏山」とか「臥竜山」とか、日本中いたるところにあり、特定できない場合がある。

3)も意外だろうが同様である。

例えば兵庫県には一宮町が2つある「津名郡(淡路島)一宮町」と「宍粟郡一宮町」である。

ひょっとするとその2ケ所に同じ地名があるかもしれない。よって×。

4)と5)では100%場所が特定できる。だから○。

ややこしいと思うかもしれないが、国産の場合上記のように、決して誤って受け取られることがないようにするため、都道府県名−市(郡)名−町村名−字等 を記入する癖をつければ良い。
また、高山系の虫などではパルナシウスの例でもわかるように高さの記入があれば更に良い。

ついでに言うと、カッコつけて Mt.Mikusa みたいに英字表記する人もいるが、漢字表記の方が意味が明確(Mt.Mikusa = 三種山or三草山?)であるから英字表記はしないことにしよう。英語版は海外に交換などで送るときに作ったらいいのだ。

ということで、ラベルの書き方その2

産地はなるべく詳しく!
都道府県名−市(郡)名−町村名−字等 を記入する
英字表記はしない


3.採集日

いままで示した実際のラベル例をまとめてみると

ラベル例1 June 1995 (6月1995年)
ラベル例2 10/VI/1995 (10日6月)1995年
ラベル例3 1996.7.1-23 (1996年7月1日−23日)
ラベル例4上 22/VI/1993 (22日6月1993年)
ラベル例4下 10-20/7/91 (10日−20日7月1991年)
日本では、年/月/日(YY/MM/DD)の順にすることが日常生活では一般的である。
外国では、上の例の DD/MM/YY の他に MM/DD/YY とがあるようだが、いずれにしても要は産地のところで述べたように、誤って受け取られない書き方をすれば良いわけである。

そこでグローバルスタンダードによることにして、日/月/年 (DD/MM/YY) と書くことにしよう。
さあ、そこで 7/6/1996 と書いたとする。当然書いた本人は1996年6月7日のつもりだが、1996年7月6日と受け取られる可能性がある。どうすれば良いのか?

「月」を英数字で書かないこととすれば良い。「月」については「VI」のようにローマ数字とするか「June」または「Jun」のように英語の月を書くことにすれば間違いない。
どちらかと言えば、最近はワープロやPCでラベルを作ることも多く、パソコンの辞書変換で10を表す「X」までは直ぐに変換できるが、11月12月をあらわす「XI」「XII」は変換されないので、Jan.Feb.・・・・Nov.Dec.方式を使うことをお勧めする。

「年」については、従来は93と2桁で書いても月や日に間違われることがなかったが、「西暦2000年問題」は虫の世界でも重要な問題で、少なくとも2000年以降の日付については4桁で書くことにしよう。

ということで、ラベルの書き方その3

日/月/年の順に11/Jul/1998のように記入する。

4.採集者

産地は分布の為に必要な情報であるし、採集日は出現期の為に重要な情報である。採集者名についてもあった方が良い。しかしながら表示すべき事項の優先順位は産地(採集地)、採集日にくらべてずっと低い。

前記のラベル例では例4のパルナシウスの2種で書かれている。カザフスタンの蝶はV.Lukhtanovというおっさんの採集品でタジキスタンの蝶はPAULUSという兄ちゃんが採ったのだそうだ。(おっさんと兄ちゃんが正しいかどうかは実は不明だ)
「採集」には「col」と「leg」が良く使われる。


いままでのまとめ

ということで大体が判ったことと思う。
またラベルは高さ10mm幅20mm内外に普通はするので、PCの機能を使って、小さくて鮮明なラベルを作るように心掛けよう。 また、名刺用の上質紙も販売されているので利用することを勧める。

または
ラベルはこのように作れば良い

5.飼育ラベル

飼育ラベルについては産地名に採集地のときとは異なり、最後に「産」をつける。

上のラベルは蝶の場合だが、クワガタで飼育経過を残したい場合は飼育経過を別のラベルとして、標本には複数のラベルを刺すことになる。累代飼育をしている人で親や累代数にこだわる向きは、親の番号やF2、F3など累代数を書けば良いだろう。ただし、たかだか20年間でF17とか、頭の中を疑われるようなことは書かない方が良い。


以上がラベルの作成法である。
わずか1cm×2cmくらいのラベルでも表示方法の裏にはかなりの思想があることがわかっただろうか?

さて筆者は、クワガタムシの標本のコレクターとして有名で、また展足についても超有名な鈴村勝彦(すずむら・まさひこ)氏のお宅を訪問したので、次に鈴村式展足について簡単に報告しよう。


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