「…吉田先輩に渡してください」
「へ?」
ガクンッと肩を落とす俺。
「自分で渡すのちょっと恥ずかしいから…あの…駄目でしょうか?」
「い、いや、わかったよ。吉田のヤツに渡せばいいんだな」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「ああ。まかせとけ」
さやかちゃんはぺこりと頭をさげると。俺の前から走り去った。
校内を探し回りなんとかクラスメイトの吉田を捕まえると、預かったチョコを渡す。
うぅ…なんで俺がこんなに苦労しなきゃなんないんだよ。
「よぉっ! シケた面してんな。さてはまだ一つももらってないなお前」
俺ががっくりと肩を落としてうなだれていると、友人の牧野が後ろから背中をたたいてきた。
「うるせーよ」
「心配するなって。俺も仲間だ。今年はぜんぜん駄目。義理すら一個ももらえなかった」
「おお! 同志よ!!」
俺たちはお互いの肩をガッシッと組んで昇降口に向かった。
「あの…牧野君…」
「え?」
昇降口で一人の女性徒が俺たちの前に現れた。名前は知らないけど、確か隣のクラスの女の子だったような気がする。けっこう可愛い。
「ちょっと、いいかな?」
牧野にそう伺いつつ、ちらりと俺の顔を見る彼女。
さいですか。俺はお邪魔って訳ね。
「あ…悪い、ちょっと俺、行ってくるわ」
「ああ、どうぞごゆっくり」
気まずそうに俺に言う牧野。
俺は、外見上こそ、平静は装っているものの、心の中で「裏切り者ー!!」と叫んでいた。
うう、なんか学校にいると、どんどん惨めになってくる。
今日はとっとと帰ろう。