「せっかくだから泳ぎましょう!」
じっとしているのも飽きたので俺は優紀さんを海へと誘う。
「え? …いえ、わたしは…」
「優紀さん。海に来たんだから、泳がなきゃ損だって。ほら、行きますよ」
いつもとは逆に俺が優紀さんの手を取り引っ張って行く。彼女は少し困ったような表情をしながらも俺について来た。
「きゃっ、冷たい」
優紀さんは海に足を付けた瞬間、小さく叫ぶ。
「大丈夫。慣れてしまえば平気ですって」
そう言って彼女に水を掛ける俺。
「やだ! ちょっと、ほんとに冷たいんだって…。もう!」
お返しとばかり水を掛けてくる優紀さん。しばらく子供のように水を掛け合っていた二人。おかげていつの間にか水の冷たさに慣れてしまった。
「ほら、慣れてしまえば気持ちいいでしょ」
「君ってけっこう強引ね」
「優紀さんには負けますけどね」
「言ったなぁ!」
「うわっぷ!」
俺はまた水を顔面に掛けられた。次から次ぎへ反撃の余地もなく水をかけてくる優紀さん。
「ちょ…ちょっとタンマ…うぷ! …悪かったです。ごめんないさいっ!」
優紀さんは調子にのって次から次へと水しぶきを飛ばす。俺はたまらず沖の方へ逃げ出した。
「あ、逃げた!」
優紀さんが追ってくる。
うひー! かんべんして〜!
俺は得意の泳ぎモードに入り優紀さんとの距離を開ける。
「ちょっと、まこと君、待ってよ。あっ」
そう言うと驚いた顔をしたままその場で硬直する。
あれ? 優紀さんどうしたんだろ?
「うそ…」
そう言ったかと思ったら水面をばちゃばちゃやりだした。なに遊んでるんだ?
俺が近づくと優紀さんはいきなり俺にしがみついて来た。
「ちょっと、まこと君足が着かないわよここ! ねぇ、やだ! 助けて…」
おいおい、溺れていたのかよ…。
半分パニック状態で俺に力一杯しがみついてくる優紀さん。
嬉しいけど苦しい。このままじゃ二人とも溺れてしまう。
なんとか俺は優紀さんの腕をふりほどき背中側に回ると後ろから彼女を抱き留めた。
確か何かの本に書いてあったんだよな。溺れている人間を助ける時は正面から近づいてはダメだと。
「大丈夫だから、優紀さん落ち着いて」
俺は少し落ち着きを取り戻した優紀さんをゆっくり岸の方へ連れていく。こんな時に不謹慎かもしれないけど俺はドキドキしていた。
事故のせいとはいえ、こんな綺麗な女性を後ろから抱きかかえているのだ。しかも水着姿の…。
「まこと君、ありがと…もういいわ。足つくから」
「え? …う、うん」
俺はあわてて優紀さんの体から離れる。そのまま二人とも無言で浜辺まで移動した。
あちゃあ、ちょっと気まずいかも…。
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