「ちょっと! こんな所でなにやってんの!」
突然、甲高い声がした。
慌てて、優紀さんと俺は離れる。
あ〜あ。美鈴だよ。
「深川! あんたこんな所にいていいと思っているの? 職務怠慢じゃない! お父様に言いつけるわよ!」
「お嬢様が、宇佐美様のお相手をなさらないから、私が変わりにお相手をしてさしあげていたのです。旦那様に申し上げて困るのはお嬢様の方ですよ」
あらら、優紀さんいつもの口調に戻ってるぞ。
「うるさい! いいから会場に戻りなさい」
「分かりました」
優紀さんは静かに頷くと、浜辺に置いていた靴を拾い上げ、マリン文化会館の方へ戻って行った。
「馬鹿男! どういうつもりよ! 深川に手を出すなんて、あたし許さないんだから」
「何怒ってるんだよ。俺はただ話をしていただけだぜ?」
「嘘ばっかり! 鼻の下伸ばしていたくせに。あんなおばさんの何処がいいんだか」
「少なくとも美鈴と話しているより楽しかったぜ」
「ふん!」
「あ〜あ。せっかくの楽しい時間もどこかの無神経な性悪女のせいで台無しだ」
「人の気も知らないで…もう、あんたなんて知らない! 大っ嫌い!!」
そう叫ぶと美鈴は浜辺を去って行った。なにあんなに怒っているんだあいつは。
せっかくいい雰囲気だったのに。本当にもう少し優紀さんと話していたかったなぁ。
でも、彼女の普段では見られない一面を見ることは出来たし、これで少しは親しくなれたぞ。
深川優紀さんか…。
また話す機会があればいいなぁ。