「ほ〜ら、ぐるぐるぐる」
「馬鹿、やめなさい! 危ないでしょ!」
ふざける直人君を叱る直美さん。
「打ち上げいくぞ!」
ひゅうううう〜〜
「……???」
ポテッ!
「痛っ、…なんだこれ落下傘じゃないか。こんなの夜やってもつまんないぞ」
頭の上に落ちてきた落下傘の人形を拾う俺。
あるんだよね。昼用の花火がセットに入ってる事が…。
よし、次はどれにしよう?
「まことさんて、お姉ちゃんの事、好きなの?」
横で花火を見ていた千香子ちゃんにそう聞かれて、俺はドギマギした。
「え、え〜っと、まぁ…そうなのかな?」
「じゃあ、まことさんが千香子のお兄さんになるかもしれないんだ」
「え?」
俺は思わず花火を落としてしまった。
「い、いやそれはちょっと話が早すぎるっていうか、なんていうか…」
「なんてね。冗談で〜す。きゃはは」
うう、なに中学生の女の子にからかわれてんだ、俺は…。
「まことさん。お姉ちゃんのことよろしくね。まことさんのおかげであの無頓着なお姉ちゃんにやっと色気がでてきたんだから…」
「え?」
「千香子姉ちゃん、打ち上げ花火やろうよ」
「うん。やろう、やろう」
千香子ちゃんは直人君に手を引っ張られて打ち上げをやっている康太郎さんの方へ行ってしまった。
「千香子となにを話していたの?」
彼女と入れ替わるように直美さんが俺の隣にやってくる。
「ははは…秘密だよ。それにしても、直美さんって長女なのか。どうりでしっかりしてる訳だ」
「えっへん! …なんてね。でも、この子たちとこうして一緒に遊ぶ事って、もうあまりないんだろうなあ」
なんとなく遠い目をして直美さん。
確かに大人になるにつれて兄弟で遊ぶなんて事はしなくなるものなのだろうけど…。
「そうでもないぜ。現に今だって姉貴は結婚して家を出たにも関わらず一緒に花火をしているしさ。まあ、付属がいっぱいいるけど」
「悪かったわね付属で」
「…姉貴がいて、康太郎義兄さんがいて、直美さんがいて、その兄弟がいて…なんだか不思議だよ。こんなメンバーで一緒に遊ぶなんて一週間前までは思いもしなかった」
「うん。そうだよね。考えてみると、博子さんがここに嫁いでこなかったら私たち死ぬまで知らない他人のままだったでしょうね」
「俺は直美さんに会えてよかったと思ってるよ」
思わず、そんな言葉が口をついた。
直美さんは驚いたような顔をして俺の方を向く。
「な、なによ急に。…でも、本当に、出会いって不思議だよね…」
「ほら、二人ともなにしてるんだよ、そらどんどん打ち上げなって」
姉貴がただ花火を見てるだけの俺達に向かって言う。俺は直美さんと顔を見合わせて、頷きあった。
「よし、打ち上げ5連発いくぞ」
「ふふふ」
こんな地味だけど暖かく楽しい時間を過ごしたのは久しぶりだ。
俺は夏休みを三本松町で過ごして良かったと思う。
もし、姉貴の誘いを断ってれば、直美さんや彼女の周りの人達とは会えなかったんだから。
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