「私は魚って好きなの。…というより海洋生物が好きで、大学でもその勉強をしてるんだ。家でも熱帯魚を飼ってるしね」
「おお、アロアナとか飼ってんの?」
「ははは、残念、そんなに手間のかかる魚はいないわ。エンジェルフィッシュやグッピーぐらいかな」
「どんな魚が好き?」
「魚類じゃないけど、なんてったてクジラとかイルカ類ね。昔からイルカとかシャチとかは人間に接触しようとすると言われれるのよね。外国では彼らが出す周波…彼らは仲間同士の交信や音響探測などに音をつかうのね…その研究が進められ、彼らと交信しようという試みがされているわ。けっこう謎の多い生物なのよね。なんかロマンチックだと思わない?」
直美さん生き生きとして話している。よっぽど海洋生物が好きなんだな。
「あ、ごめん。なんか勝手な事、話しちゃったわね」
「いいや。結構、面白い話だよ。続けて」
「え? …うん。それでね、彼らって集団で行動してるの。その中には一種の社会的なものが形成されてて…」
俺は直美さんの話をしばらく聞いた。非常に興味深い話だった。直美さんって海洋生物の事については博識だ。少し直美さんの事がわかった気がする。
「あっ、もうこんな時間。あんまり新婚夫婦の家にお邪魔するのも悪いし、そろそろ帰ろうかな」
「気を使うことないって。直美が帰ってもお邪魔虫はいるし」
姉貴は俺を指さしながらそう言う。
「悪かったな」
「あはは、そうね。でも、今日は帰ります。まこと君ありがとう。私のこんな話を真剣に聞いてくれたのまこと君が初めてよ」
「いや、俺の方こそ、勉強になったよ」
「うん…じゃぁ、私は帰るわ。おやすみなさい」
立ち上がって、一礼すると、直美さんは帰って行った。
話していると、けっこう楽しい女性だな。最初の出会いがあんなんだったらか、もっと親しみにくい人かと思ったけど、嫌いじゃないな。
「なに直美の後ろ姿見てため息ついてるんだ」
「え?」
俺の後ろで冷やかすように姉貴が言った。
「あ〜あ。康太郎、賭は私の負けみたいだな」
「やっぱり僕の言った通りだろ?」
「賭け〜? なんなんだそれは!」
「私がまことを家に呼んだ理由」
「ああ! やっぱり何かあったんのか! どうも都合がいいと思ってたんだ!」
「ホントはまことを留守番させようと思ったんだけどな。ほら私たち新婚旅行、まだだろ?」
「留守番!?」
「いやぁ忙しくて、暇がとれないと言ったら博子が、じゃあ賭けに勝ったら無理矢理にでも時間を開けて新婚旅行をしようって話になって…」
康太郎さんがバツが悪そうに俺に言った。姉貴が笑いながらそれに続ける。
「それで、まことを呼んで、暇そうにしていたら、留守番を押しつけて、新婚旅行に出かけようかと」
「で…」
ジト目で姉貴を見る。
「まあ、なんだか目的が出来てしまったようだし、この勝負私の負けだな」
「は? …別にこの旅行の目的なんて俺、決めてないぜ」
「あら、別にいいんだぞ、留守番したいなら留守番で」
「冗談じゃないぜ。せっかくの貴重な夏休みを。姉貴が何の事を言っているのかはしらないけど、俺は留守番なんかしないからなっ」
やっぱり悪い予感は本当だったんだ。姉貴の奴が気が利いた事いう時はいつもこうなんだ。まったく。
「じゃあ、そういうことだ。博子、残念だったな。また次の機会に」
「しょうがないね…でも、今晩はみっちり甘えさせてもらうからねぇ」
「かぁ〜勝手にやってろよ! 俺は寝る」
よく弟の見てる前でそんな恥ずかしい事、言えるよなっ!
つきあいきれね〜!!
「はい。はい。お邪魔虫はとっとと消える」
「ははは。じゃあ、おやすみまこと君」
姉貴は康太郎さんの肩に片腕をまわし、もう一方の手でシッシッとやった。
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