「いるよ」
俺はためらいなくそう答えた。
もちろん嘘なのだけど、彼女の反応を見てみたかった。
「そうなんだ。知らなかった」
静かにそう答える小野寺さん。
意外に驚かないな。
「ね、相手は? もしかして、綾部さん?」
「え? 違う、違う。なんで俺が美鈴なんかと…」
「でも、よく二人で楽しそうに話してるわよね。ほら、この間だって…」
「あのね、小野寺さん。あれの何処をどう見れば楽しそうに会話してるようにみえるんだ?」
「あら、喧嘩するほど仲がいいって言うじゃない?」
「俺と美鈴の場合は本当に仲が悪いから喧嘩するんだよ。…とにかく違うよ。あいつは」
「でも、宇佐美君が仲良くしている女の子って他には思い当たらないもん。う〜ん、もしかして他のクラス? 他の学年? あわかった他の学校の生徒だ」
小野寺さんは長椅子を降りて俺の前にやってくる。
そして楽しそうに俺の顔をのぞき込んで俺の相手を聞き出そうとする。
「違うよ。うちのクラスだよ」
「え〜、誰だろ? わからないよ」
「もう一人、親しい人、いるんじゃないかな?」
「なんか悔しいなぁ。わたし宇佐美君の事、結構、知っているつもりなんだけどなぁ。親しいわたしが分からないとなると宇佐美君、相当隠し事するの上手いよ…って、あれ?」
気づいたのかな?
俺はドキドキしながら彼女の顔を見返す。
「もしかして、わたし?」
自分を指さして言う小野寺さん。
「俺はてっきりそのつもりだったけど? いまだってほら、二人っきりでデートしてるじゃん」
「え? でも…だって」
「なぁんて、冗談だけど」
とっさに、そんな事を言ってしまう俺。
あああ〜。俺は馬鹿か?
せっかく告白できるチャンスだったのに…。
「冗談?」
「いつもこうやってからかわれてるから、仕返しだよ」
そう言った俺に対して彼女は何か言いかけたが、すぐに口をつぐんだ。
あちゃぁ…もしかして怒っちゃったかな?
彼女は黙ったまま再び俺の背後に腰を下ろす。
「なんだ。びっくりしちゃった。あたしは宇佐美君がそのつもりでもよかったのにな」
「またまた」
「わたしはいつだって…」
「え?」
「ううん、なんでもない」
いつだって…なんだったんだろう?
俺は背中越しに彼女の表情を見る。
空を見上げる彼女の眼差しからは、なにも見い出す事は出来なかった。
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