■美鈴編■
7日目【7月27日】


 
 
 一時間ほどで俺たちは某国際空港へ到着した。
 優紀さんは俺を出発ロビーの前で降ろす。

「まだ急げば間に合うと思うわ。JALの435便パリ行きよ。もう搭乗手続きが始まってるはずだから、国際線のターミナルの二階へ行って出発ロビーを探してみて。もうあんまり時間ないから急いでね。私も車を置いてすぐに行くから」
「ああ。ありがとう優紀さん」
「まこと君、しっかりね」

 俺は走って国際線ターミナルに入ると二階へのエスカレーターを駆け昇った。

「…11時10分発、日本航空435便パリ行きは、ただ今、搭乗手続きをおこなっております」

 俺は駆け足で出発ゲートの前にやって来た。急いで美鈴を探す。さすがにパリ行きの飛行機だけあって目立つはずの美鈴の容姿は目印にならなかった。

「美鈴! 美鈴!!」

 俺は必死に美鈴を捜したが見あたらない。そして出発ゲートの向こうに目を移す。

 いた! ぎりぎり間に合った!
 俺はそこに美鈴の姿を認める。

「美鈴!!!」

 俺が大声で呼び止めると、美鈴は振り向いた。
 その顔には驚きの表情が浮かぶ。

「美鈴!行くな!!」

 俺は周りの目も気にせず美鈴に叫んだ。美鈴は少し戸惑いの表情を見せる。

 しばし、お互いに無言で見つめあう。

 彼女は目を伏せて、動き出す。引き返してゲートで係りの人となにやら話した後、そこを抜けて、俺の方へゆっくりと歩いて来た。
 そして俺の前に立ち止まる。彼女の表情からはなにも読みとれない。無表情のまま俺を見上げる。

「美鈴?」
「馬鹿…。来るのが遅いわよ…もう来ないかと思ったじゃない」

 そう言うと美鈴は倒れ込むように俺の胸に額を押しつけた。

「ほんとにあんたって馬鹿なんだから…」

 美鈴は俺の顔を見上げ微笑んだ。
 そして俺の腕を取って歩き出す。美鈴の顔に満足そうな微笑みが浮かび、瞳は涙で潤んでいた。

 空港のロビーで優紀さんと合流すると、俺たちは空港を後にした。車の後部座席で、美鈴はずっと俺に寄り添っている。

「馬鹿男。私を日本に呼び止めた以上は責任を取ってもらうわよ」
「え?」
「私の側にずっといる事」
「ああ、これからはずっと側にいるさ。美鈴」
「約束よ、絶対だからね」
「わかってるって。約束だ」
「…うん」

 美鈴の幸せそうな顔に俺は嬉しさを覚えた。一週間前まではお互いに理解しあえなかった二人が今はこうしてお互いを求めあっている。俺はこの旅行で多くのものを得たみたいだ。
 美鈴…もう寂しい思いはさせない。これからは俺が美鈴の支えになる。俺は美鈴の幸せそうなこの笑顔があればそれでいい。

 俺は心からそう思った。