◆プロローグ◆
『忘れない海』
座る者のいなくなった机。
「さよなら」も言わずに去った娘の机は、どことなく置いて行かれた寂しさが漂ってた。
新学期になって相変わらずの生活が戻ってくる。美鈴の急な転校の知らせに、クラスのみんなは驚いたが、2、3日もすると、そんな娘いたのかどうかもわからないくらい忘れられていった。退屈な授業時間。教師の声より蝉の声のほうがよく耳に入る。俺はなにげなしに持ち主のいなくなった机を見つめていた。
美鈴…。
名前を思い出す度に俺の胸は熱くなった。
俺ってこんなに美鈴の事が好きになってたなんて…。
なぜ、もう少し早く気づかなかったんだろう?今となってはどうしようもない事だ。
今、あの夏の日の出会いを振り返る。美鈴と海で出会って、喧嘩して、話をして、デートして…。
確かに今はこんなに切ない気持ちになってるけど、俺は後悔していない。なぜなら、あの夏は俺の一生のうちで一番大切な思い出だから。俺は美鈴の事を絶対忘れない。
決して。
【END】
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