◆7月22日<夕方>◆
『美鈴の危機』
夕方、暇を持て余した俺は、せっかくだから天乃白浜にでも出ようと思い、姉貴の家を出る。
近道をするため、俺はまた美鈴の別荘の裏を通り、人気のない松林を突っ切って浜辺へ出ようとした。
その途中、別荘分譲地の工事をしている場所で、聞き覚えのある声を聴いたので、俺はなんとなく、声のする方へ行ってみた。そこはちょっと奥ばった所で、コンクリートの壁があり、手前の方からは完全に死角になる場所だった。
「ちょっと! これはどういう事よ、静香!」
ああ。やっぱり美鈴達だ…ってちょっと様子が変だぞ。
とっさに大きな松の木の影に体を隠す俺。
「どういうことって? あんたが望んだことじゃない。わたしたちについていくって」
「こんなこと聞いてない!」
「あら? 言ってなかったもの。当然よね」
後ろから2人の男に羽交い締めにされていて、その前で静香が腕を組んで余裕の表情で彼女を見下ろしていた。
おいおい、なんだかとんでもないシーンに鉢合わせてしまったのでは…。
「ほぉ〜静香が言っていたとおり、本物の金髪女だな。こいつはめずらしい。こういうのとは滅多に犯れないからな」
4人いる男のうちリーダー格の男が美鈴を値踏みするように見ながら言う。
「なっ! …まさか、静香!」
「そういう事。祐二がどうしても金髪女と犯ッてみたいって言うから仕方ないんじゃない? ま、そろそろわたしもあんたがうざったくなって来た所だったし、丁度良かったわ」
「そ、そんなことをしてみなさい! 後でどうなるかわかってるの!?」
「わかってるわよ。あんたに綾部財閥の力を使われたらヤバイ事くらい。でもあんたは使わない。というより使わせないわ」
ひとりの男に合図をすると、その男はバックからビデオカメラを取り出し美鈴に向けた。
「しっかり撮っておいてあげるからね。もし後で変なまねしたら、コイツを流すからそのつもりで」
「な!! なんて卑怯…。で、でも、あたしがそう簡単にあんたたちの言いなりになると思うの?」
「そうね…あんたが外国仕込みの護身術とやらを使われるのは面倒よね。でもね、わたしがそんなことも考慮に入れないほど間抜けだと思う?」
「え?」
静香が合図をするとリーダー格の男が注射器を片手に美鈴に近づいた。
「な、なによそれは!」
「ん、あまり詳しく聞かないほうがいいんじゃない? まぁ、あんたが素直になる薬ってところかしら。あ、心配しないで、すっごく気持ちよくなれるんだから」
「い、嫌…いやぁぁあああ!!」
美鈴は思いっきり抵抗するが、2人の男にしっかり押さえられているので、逃げられない。
「おい! しっかり腕を押さえておけ!」
「往生際が悪い子ねぇ」
「やだ! いや、いや、いやあああああ!」
やばい! 今なんとかしなくては、大変な事になるぞ。
くそ!! こうなれば一か八かだ!!
俺はなげなしの勇気を振り絞って奴らの前へと駆け出した。
「止めろよ! 佐竹」
「誰!?」
「あん?」
その場にいたすべての人間の視線が俺に集まる。
「なんだ? てめぇ。邪魔するんならただじゃおかねぇぞ!!」
「待って、祐二。…誰かと思えば宇佐美君じゃない。どう? あなたにも犯らせてあげるわよ。祐二たちの後でよければだけどね」
「馬鹿言うな! いくらなんでも度が過ぎてるぞ!」
「無理しなくてもいいわよ。あなただってこのわがままお嬢様に振り回されたクチでしょう? 日頃の行いを悔いさせるいい機会だと思わない?」
「止めろって言ってるんだ! 美鈴を放せよ」
「…馬鹿な男ね。素直に従えば痛い目に遭わずにすんだのにさ。祐二」
「おう! …ったく面倒なガキだぜ。さっさと尻尾を巻いて逃げていればいいのによ」
静香の合図で、祐二と呼ばれた男ともう一人が、腕をポキポキ鳴らしながら俺に近づいてくる。
う…やばい。勢いで出てきたのはいいけど、やっぱ怖い…。
俺のとっさに考えた作戦が上手くいけばいいけど…。
「とっとと、ネンネしちまいな!!」
そう祐二が叫ぶと俺に拳を構えて襲いかかって来た。とっさに右手に持っていたものを、そいつの顔に投げつける。
「が、がは!!! なんだこれは!!」
白い煙のようなものがばっと広がる。ヤツはそれをモロに食らって、顔を押さえて倒れ込む。おそらく目の中にでも入ったんだろう。
俺は目眩まし用に工事現場にあった石灰の粉を両手につかんできたのだ。立て続けにもう一つをひとりの男に浴びせかけるとその隙をついて美鈴の方に駆け寄る。
その時にはすでに、美鈴は、自由の身になっていた。状況にあっけにとられていた男達の隙をついて、つかんでいる男の腕に噛みつき逃れたようだ。
「美鈴! 今のうちだ!早く!」
「わ、わかってるわよ!」
急いで俺は美鈴の手を取って逃げ出す。
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