■美鈴編■
2日目【7月22日】


 
 
「まったく、お前は相変わらずロクな事しないなぁ」
「……」
「どうせ、佐竹達に何か言われたんだろ?」
「し、知らないわよそんなこと」

 さっきまで口を閉ざしていたのに、声を荒げる美鈴。
 その態度に、言った事が図星であったと確信する。

「度胸試しとか言われたか?」
「あんたには関係ないでしょ?」
「巻き込んでおいて関係ないはないだろ?」
「見て見ぬ振りをしていたあんたが悪いんじゃない」

「ったく解っているのか? 自分がやったことが」
「たかがCD一枚でしょ? いいじゃないそれくらい」
「CD一枚でも金払わないで持って行けば立派な泥棒だ。それが解らないお前じゃないだろう」

「あんたにはわかんないわよ。リスクがないと意味ないのよ。勇気が試されているんだから」
「これだから世間知らずのお嬢様は。あのなぁ、そんなのは勇気とは言わないんだよ。おまえはただあいつらの言いなりになっているだけなんだよ。そういう事を断ることこそ本当の勇気って言うんだ。違うか?」
「……」

「まぁ、所詮、お前はお嬢様だからな。物の価値なんてわかんなくて当然だよな」
「な、なによっ! 勝手に決めないでよ! 解るわよそれくらい」
「じゃあ、解ってるはずだろう。物を人に盗まれることがどんなに不愉快なことか。しかも遊び感覚で、そんなことされるのが、許されることなのか」

「……」
「それに今回はなんとか誤魔化せそうだからいいものの、もし捕りでもしたら、家や学校に連絡されて、ウチの担任とか親に迷惑かけることになるのだぞ。それに優紀さんも責任とらされるだろうし…」
「別に構わないわよ…そんなの」
「本気で言ってるのか?」
「お父様はどうせもみ消してくれるだろうし、担任や優紀だって別にいつもの事だと思うだけに違いないわ」

 少し寂しげに美鈴。

「どうせ誰も私を叱ったりしないんだから、関係ないわよ」
「俺が叱るさ! 残念だよ。お前はわがままでタカビーだけど、こういう事にはプライドを持っていると思っていたよ。もっとちゃんとした自尊心をもっているヤツだと思っていた」
「……」

「お前の自尊心はただの飾りだよ」
「ち、違うわよ…」
「だったら、こんなことは止めようぜ。こんなことをしても自分が傷つくだけだぜ。こんな時にこそ、他人のくだらない価値観を勇気を持ってはね除けるべきだろう?」
「……」

「わがままを押し通すお前の性格って、みんなが言うほど悪いものじゃないと俺は思う。逆に言えば、他人に左右されない自分というものを持っているということだろう。まぁ、ほとんどの場合、周りの迷惑を考えないお前のわがままは、感心できるものじゃないけどな。だからこそ、そういった性格を、いい方に使えよ」
「…な、なによ偉そうに…解ったわよ。もうしない」
「よし。それじゃぁ、あとで店の人にも謝るんだぞ」
「…わかったわよ」