「静香、こっち、こっち。こっちにパスしなさいよ」
そう叫ぶ美鈴を無視して静香は麻紀子にパスをする。
ボールを持ってゴールへ急ぐ麻紀子に美鈴が催促する。
「麻紀子、あたしにボールを渡しなさい!」
そういって自ら彼女の元へ取りに行こうとする美鈴を無視してゴール前に移動していた静香にパス。
俺は静香のそばに行って彼女からボールを奪おうとするが上手くかわされる。
「ちょっと、何やってるのよ静香。ボール取られちゃうでしょ!あたしにパスしなさいよっ!」
しかしまたもや無視。そのまま俺の隙をついて得点を入れてしまう。
その後も、静香達は美鈴ぬきで試合を展開して、次々と得点していった。
はじめは文句を言っていた美鈴も次第に口数が少なくなり、今ではプールのすみでふてくされている。
「よっしゃ!ゴール!!」
「やりましたね、静香さん」
駄目だ。やっぱり数にものをいわされたら、とてもじゃないけど勝てはしない。
静香達はけっこう盛り上がっている。まぁ仕方がない。ここで止めて盛り上がりに水を差すのはなんだしな、とりあえず最後までつき合おう。
「止めた、止めた。もう止めよ。あんたたちとっととプールから上がりなさい」
急に美鈴がそう言ってプールから出る。
「宇佐美、あんたはあと片づけして帰りなさいよ。あんたたちももう出て行きなさい」
そう言い捨てると、返答も利かずにぷいっと美鈴は別荘の中へ帰って行ってしまった。
「なによあれ」
「自分が活躍できないからって最低」
そんな苦情が静香たちの口からもれる。
「静香さん、あんなヤツ放っておいて行きましょう」
「そうね」
静香は心底冷めた口調でそう言うと俺の方を向く。
「宇佐美君、楽しかったわ。後かたづけ頑張ってね」
そう言いながら、俺にビーチボールを投げ渡すと、彼女たちもプールから出ていった。
美鈴のヤツこれだから、いつまで経っても友達ができないんだ。
俺は仕方なく後かたづけを始めた。
「あ、ゴメンね、ひとりで後かたづけさせちゃって」
優紀さんが、ひとり後かたづけしている俺に気がついて、あわてて手伝いに来る。
「ねぇ、お嬢様、なにかあったの?」
「どうしてですか?」
「急に部屋に帰ってきたと思ったら、着替えて外に行っちゃったから」
俺はとりあえず優紀さんに事態を説明した。
「これで終わりね。お疲れさま。後はわたしがやっておくから。それと、これ、バイト代よ」
お金の入った封筒を渡される俺。
「でも、俺、水球で負けたから」
「なに言ってるの。そんなこと関係ないわよ。いいからおみやげ代にでも使って」
「…はい。ありがとうございます」
「礼を言うのはこっちのほうよ。これからもあの子、宇佐美君にはいろいろと迷惑かけると思うけどよろしくね」
俺は普段着に着替えると、優紀さんにもういちど挨拶をして美鈴の別荘を出た。
帰りにバイト代の封筒を開けると、2、3時間のバイトにしては多すぎる金額が入っていて驚いた。
あとでもう一度優紀さんにはお礼を言っておこう。
それにしても大丈夫かねぇ。美鈴のヤツ。
静香達、なんかヤバ気な雰囲気だったけど。
|