■真澄編■
エピローグ


 
 

◆エピローグ◆
『夏休みが終わって』


 


 夏休みも終わり学校が始まってもう一週間経った。
 残暑はまだまだ残ってるものの景色は秋へと少しずつ色をかえつつある。
 学校も終わって俺は何気なく響谷駅の前に来ていた。
 別に電車通学でもない俺が理由もなくここに来てしまったのは、たぶん、また真澄ちゃんに偶然会わないかという期待があったせいなのかもしれない。

 聖華院女子高はここから二駅先にある。だから彼女はこの駅を利用しているはずだ。
 待ち合わせしている人の中に混じって、俺は花壇のブロックに腰を下ろしていた。
 聖華院女子高の制服を来た一団が駅から出てきて目の前を通りすぎる。俺は思わず真澄ちゃんの姿を目で探していた。

 俺はなにをやっているのだろう…。

 自分ながら根暗な行動だなと自嘲してしまう。

 やっぱり、好きだったんだな…真澄ちゃんの事。

 俺はこの頃、いまさらな事を再確認してしまっている。
 嫌われてしまったから…仕方ないのに。
 ふと、考えを変えて俺に会いに来てくれるんじゃないか。そんな可能性のない期待をしてしまう自分がいる。

「だ〜れだ」
「え? ま、真澄ちゃん!?」

 まさか!
 俺は目隠ししている手を払いのけて、慌てて振り返った。

「ごめんね。あたしなの」
「お、小野寺さん!」

 そこにいたのは小野寺美和だった。

「大丈夫? 宇佐美君。このごろ凄く落ち込んでるから私、驚いちゃって」
「……」

 俺は何も答える気にならなかった。俺は再び駅の方へ顔を向ける。
 彼女はゆっくり俺の隣に腰を下ろした。

「弘から…いろいろ聞いたわ。私の責であの娘に誤解されちゃったんだね。ごめんなさい」

 ゆっくりそう言うと、すまなそうに頭をさげる小野寺さん。

「別に小野寺さんのせいじゃないよ。俺が不甲斐なかっただけだから」
「本当にごめん。宇佐美君。お詫びに一緒になにか食べに行かない?もちろんおごるから、ね?」
「悪ぃ。俺、今は一人になりたいんだ」
「駄目よ。落ち込んでる時に一人になっちゃ駄目。食べて、そのあと遊びに行ってパーっと忘れちゃおうよ」
「忘れられないよ…俺…忘れられるもんか…」
「宇佐美君…」

 悲しそうな顔で俺を見る小野寺さん。俺は黙ったまま俯いた。


「だぁぁぁー! もう、うざってぇ、つべこべ言わずに行くぞ、まこと!!」

 突然、背中から声がして腕を引っ張られる俺。

「うあぁぁぁぁ」

 弘だ。
 いつの間にか反対側に座って俺達の会話を聞いていたらしい。

「お前なぁ、こんな綺麗な娘に誘われてがたがた言ってるじゃないぞ。いつまでもうじうじしてお前らしくもない」
「そうよ。暗い顔しててもだれも喜ばないわよ。いいから行きましょう宇佐美君」
「ちょ、ちょっと待てよ」

 俺は弘から引っ張られ、小野寺さんから背中を押されながら街の方へと連れて行かれる。
 こいつらは…。

 まぁ、そうだな。
 済んでしまった事をいつまでも考えていても仕方がないか。
 本当言うと、夏休み開けて以来、俺はこの二人とはなんとなく仲がぎくしゃくしていた。俺は意識しないつもりでも、意識してしまっていた。
 誤解される元々の原因であった二人を。

 でも、二人の明るさと強引さが、こんな時はありがたい。
 確かに真澄ちゃんとは終わっちゃったけど、こいつらとの仲まで終わりにしたくない。
 確かにあの夏の思い出は忘れられないけど、いつまでも落ち込んでる訳にもいかないもんな。
 今は辛くても、いつかいい思い出として振り返る事が出来るだろうから…。
 俺は何気なく駅の方を振り返る。多くの学生達が行き来するその中に、俺は真澄ちゃんの姿を見た…ような気がした。

「ごめんな…そして、さよなら」

 そう小さくつぶやくと俺は再び二人と一緒に歩き出した。
 もう俺は二度と振り返らなかった。



【END】