ちょっと休憩。
俺は浜辺に座って海の方を一人見る。
ボードはというと、タオルをかけて横に置いてある。
真澄ちゃんは、まだ沖で波を待っているようだ。
あれから何回も練習をして、なんとか波にはのれるようにはなった。
前まではサーファーとか、なんでわざわざ危険を冒してまで波に乗りたがるか分からなかったが、今日、なんとなく気持ちがわかった気がする。
波と一体となる感覚が、あんなに素晴らしいものなんて思わなかった。
これは来年あたり、俺もボード買って始めようかな?
あ、真澄ちゃん、波に乗るぞ…。
彼女は上手く乗ると、一気に波を駆け下り加速をつける。そして勢いに乗って波を斜めに切るように横に走ると、今度は波を登って行く。
登り詰めた所で、ジャンプターン!
うひょ〜、やるぅ!真澄ちゃん!
彼女は去年、始めたばかりで上手くないと言ってた割にはめちゃめちゃ凄いじゃないか。
でも、意外な一面だな。中学の時の彼女からはこんな姿、想像出来なかったよ。
大人しかったし、どちらかといえば、図書館で静かに本を読んでるようなタイプで、運動も苦手だって言っていたのに。
「ね、宇佐美先輩、見てくれました? あたし初めてトップターン、出来たんですよ!」
息を切らせながら、俺の方へやって来た真澄ちゃん。凄く嬉しそうだ。
「見た! 見た! 格好良かったよ! 凄いじゃないか真澄ちゃん」
「えへへ。なんか今日は調子がいいみたい。先輩のおかげかな?」
「そんな訳ないだろ?真澄ちゃんの実力だって」
「不思議なんです。あたし、人に見られたりすると、あがってしまって、上手く出来なくなちゃうんです。でも、それが宇佐美先輩だったら逆に落ち着いてやる気が出るんですよね。さっきだって、先輩が見てた事気付いてました。でも意外と緊張せずに集中できたんですよね」
「それって良い意味に取っていいのかな」
「もちろんです! 先輩は中学の時だって、私を見守ってくれてましたよね。その時からあたし…」
「その時から?」
「い、いえ、なんでもありません。さぁ、先輩。行きましょ。せっかく今日はいい波がたくさん来てるのに、もったいないですよ」
強引に俺の手を取り、引っ張って行こうとする真澄ちゃん。
「ちょ、ちょっと待てよ。ボードとフィン、持っていかなくちゃ」
「え? …あっ!」
彼女は急に手を離した。彼女を止めようと後ろに重心をかけていた俺は、思わすしりもちをついてしまってた。
「あたた…急に放さないでくれよ」
「ご、ごめんなさい!!」
顔を真っ赤にして俺の前に来る彼女。
「あたし、思わず先輩の手を握ってしまっていたから驚いて…」
手を握った事が恥ずかしかったのか。まあ真澄ちゃんらしいといえば真澄ちゃんらしい。
「それじゃ、真澄ちゃん、はい」
砂浜に座った姿勢のまま、仏頂面で真澄ちゃんに向かって手を出す俺。それを不思議そうに見る真澄ちゃん。
「起こしてくれよ」
「え? …は、はい」
恐る恐る俺の手を握る真澄ちゃん。俺は極力真澄ちゃんに負担にならないように、それでも適度に力をかけて立ち上がる。
真澄ちゃん、顔が真っ赤だ。
う〜ん、初々しくてかわいいなぁ。
握ったままの手をぼーと見つめている彼女。
「ほら、行こうぜ」
「きゃっ!」
今度は俺が彼女を引っ張って俺は海へ向かった。
|