■真澄編■
2日目【7月22日】


 
 
 由希子さんは桟橋に腰掛けたまま、足をぶらぶらさせながら夜の海を見つめてた。その隣に俺は立ったまま彼女の様子を伺った。

「あのさ…真澄が中学の時、つき合っていた彼氏がいた事、知ってる?」
「え? 真澄ちゃん、誰かとつき合っていたんですか?」
「なんだ、知らないんだ」
「初耳、初耳。でも、おかしいな。そんな事があれば、俺の耳にも入って来てもよさそうなものだけど…それって本当に?」

 一時期は彼女と俺がつき合ってるんじゃないかと言われた事もあったけど、実際は彼女とつきあってた訳でもないし、彼女が勘違いしていたなんて事もないはずだ。

 少なくとも相手は俺じゃない。でも、彼女の当時の性格から言って、俺以外の男子生徒とは、ほとんど話をしたことがなかったはずだ。デマじゃないのか?

「本当よ。あの娘、あたしの所に「フラれた」って泣きながら電話をかけて来たんですもの。あたし、宇佐美君を紹介された時、てっきりその時の相手は君だって思ったんだけど、どうやら違うみたいね」
「真澄ちゃん。もしかして俺とつき合ってるって勘違いしていて…」
「宇佐美君、あの娘に別れようなんてはっきり言った?」
「いいや、そんな事言った覚えはないですよ」

「じゃぁ、違うわ。はっきり別れようって言われたって。真澄、相当落ち込んでいたのよ。見てるとすごく痛々しかったわ。立ち直らせるの大変だったんだから。もう真澄にあんな思いさせたくない。あたしはそう思った訳」
「真澄ちゃん真面目だからね。きっと真剣だったんだな。う〜ん。でも相手は誰だったんだろう?」

 俺は少し、その相手が憎らしく思えた。引っ込み思案でおとなしかった真澄ちゃんを彼女にしたくらいだ。相当モーションかけていたに違いない。それを俺は気付かなかったというのもどうも気にくわない。

「真澄はあたしにとって妹のようなものなの。だから心配だった。でも宇佐美君なら大丈夫みたい。あの娘の事、よろしくね」

 由希子さんは俺の方をちらりと見ると、立ち上がってお尻を軽く叩いて砂を落とした。

「ごめんね。こんな時間に呼び出しちゃって。それじゃぁ」

 そう言うと彼女は小さく手を振って帰って行った。