夕食も済んで、俺は近くの自動販売機にジュースを買いに外に出た。
姉貴の奴、なンか飲み物くらい置いておけよな…。
買ってきたコーラを片手に、俺は玄関のドアを開けて中に入った。
そして、靴を脱ぎかけた時、姉貴がぱたぱたスリッパの音をさせながら、こちらにやって来た。
「まこと。さっき、電話があったぞ」
「え? 俺に?」
よくここの番号が分かったなぁ…誰からだろう?
「女の子からだ。三本松海水浴場の桟橋にいるからって言ってたな」
きっと真澄ちゃんからだ。何だろう。こんな時間に。
俺は脱ぎかけていた靴を、再び履き直すと立ち上がった。
「お〜お〜! モテる男はつらいねぇ」
姉貴が、からかい口調でそう言う。俺はそれを無視すると玄関を出て行った。
三本松海水浴場とはこの町にあるもう一つの海水浴場だ。
昔ながらの海の家が並ぶ日本の海水浴場らしい佇まいを見せている。
姉貴の家からそこまでは10分ほどで行ける距離だ。そこには確か貸しボートの桟橋があったはず…。多分そこの事だろう。
桟橋にやって来た。すでに辺りは暗く、月明かりがうっすらと砂浜を照らしている。
辺りを見回すが人の気配はない。先に来てしまったのか?
とりあえず、しばらく待ってみよう。
桟橋の端に街灯がある。俺はその下で水面に写る灯りを見ながら待つことにした。
「わっ!!」
「!!!」
俺は突然後ろから背中を押されて飛び上がって驚いた。その勢いで体が傾く。
うわぁぁぁ、落ちる!
倒れる先にあるのは地面ではなく海面だ。
「危ない!」
俺は倒れる寸前に肩を掴まれ引き戻された。
「ごめんね。まさか、こんなに驚くとは思わなかったから」
「あのね、真澄ちゃん。こんな場所で背中押したら危ないって…あれ?」
振り向いた先にいるのは真澄ちゃんではなかった。
「残念、由希子ちゃんでした」
軽く舌を出しながら由希子さんが言う。
「なっ、なんで由希子さんが?」
「まあ、いいじゃない。ちょっと探りを入れにね」
軽くウインクしながら桟橋に腰掛ける由季子さん。
「探り?」
「そ。真澄の事を宇佐美先輩はどう思っているかって」
小悪魔的な笑い方をして俺を見る由希子さん。
「どうって言われても、彼女は中学の後輩で」
「駄目、駄目! そんな事を聞いてるんじゃない事くらい分かってるでしょ? 誤魔化さないで」
「……」
「大丈夫よ。別に真澄に言ったりはしないから。ただ私はあの娘が心配なだけ」
「俺は……」