いや、前にいる由希子さんの方が近そうだ。
俺はその場にじっとしていた。
由希子さんも動こうとはしない。俺達は海面にポチャンとおちるビーチボールを見て、お互いの顔を見た。
「……」
「……」
次の瞬間。由希子さんはニタッと笑う。
「はい! 宇佐美君アウト」
「ちょっとまてい! 今の由希子さんじゃないか?」
「はいはい。審判は私、苦情は受け付けません」
「そんな、ずっこいですよ! インチキじゃないですか!」
「じゃぁ罰ゲーム!」
俺の非難を完全にシカトして由希子さんはみんなを集めた。
「じゃあ、俊治、真澄、彼の両腕を持って」
由希子さんが嬉しそうに指示をする。
うげ…マジでやるのかよ…。
「そんな、由希子姉さん、冗談でしょ?」
真澄ちゃんも不満そうな声で由希子さんに抗議する。
「なに言ってるのよ。本気に決まってるでしょ? ほら腕持って」
「せ、先輩にそんなことできないよ」
「なぁに?あーー!! もしかして、真澄、照れてるの?」
「そ、そんなんじゃないわ」
真っ赤になって反論する真澄ちゃん。
「宇佐美先輩と肩を組めるいいチャンスじゃない。ねぇ?」
いや、俺に振られても…。
「いいから、やるの!」
強い口調でそう言われてしぶしぶ従う真澄ちゃん。
「先輩、ごめんなさい」
そう言って俺の右腕を取って背中に回す。
うわ…柔らかな感触。真澄ちゃんの肌に触れられるなんてけっこう役得だったりして。
俺の方も少しドキドキしてきたぞ。
そして反対の腕も俊治さんに持ち上げられた。
「用意は出来たわね。それじゃ、いくわよ」
由希子さんが俺の足を掴む。
うひゃー、そんなに抱きしめたら…うぅわ、胸の感触が…。
「せーの、それ!!」
景色が一転する
ばしゃーーん!!
ごぼべがべげ!!
俺は頭から一回転した形で海面に放り投げられた。
あわてて体制を立て直そうともがく。
そしてなんとか水面に顔を出せた。うげ〜、少し海水呑んじゃったよ。
ふぅ、死ぬかと思った…。
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