「かわいい娘だったぇ。まこと」
帰りの車のなかで助席から後部座席に座ってる俺にからかい口調で言う姉貴。
「何だよ、文句あるかよ」
「お前にはもったいない。まあ、いいさ。これで賭はわたしの負けだな。康太郎」
「そうみたいだね。また次の機会って事で」
「おいおいおい! なんだよ賭って」
「いやぁ、わたし達も新婚旅行、まだだったろ? だからせっかく誰かさんが家に来てくれる事だし、この機会に行こうかという事になってたんだ」
「な、なんだよそれ!」
やっぱりだ。姉貴の奴、俺に留守番を押しつける気だったんだな。
「でも僕もそこそこ忙しいし、まこと君がやることなくて暇そうにしてるんだったらという条件を出したんだ」
姉貴に続けて康太郎さんが言う。
「今の様子だと、家にいてくれそうもないし…仕方ない、あきらめるか」
何が”家にばかりいなくて外に出ろ”だ。留守番じゃぁ、気軽に外になんて出れないじゃないか。
まったく、姉貴が親切だと、絶対なんか裏があるんだよな。
何が悲しくて他人の家の留守番をしなきゃなんないんだ。それなら自分の家で留守番のほうがまだマシだ。
「康太郎、せめて今夜は…ね」
「おいおい、まこと君がいるんだぞ」
「いいって。お邪魔虫は無視しておいても大丈夫」
おい…まったく何考えてるんだ! うちの姉貴は。わざと聞こえるように言ってやがんな。
あ〜あ。あほらしくて、なんかやってられね〜。
家に着いたらとっとと寝ちまおう。
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