■真澄編■
1日目【7月21日】


 
 
 駐車場に停めてあるワゴンRに荷物を運ぶ。
 さっきビーチにいた彼女の従姉妹の車らしい。
 それにしても駐車場までは5分位かかる。やっぱ女の子一人ではちょっと厳しいよな。

 俺と真澄ちゃんは駐車場と砂浜を3回ほど往復して荷物を運んだ。

「よっこらせっと。これで終わりだね」
「ありがとうございました。本当に助かりました。私、着替えてきますからちょっと待っていて下さいね」
「ああ」

 いいなぁ。俺はビーチ管理センターの更衣室へ走る真澄ちゃんの姿を思わず目で追ってしまった。
 これが二人だけのデートだったらなぁ。なんて思ったりした。

 ……。
 ……。
 お! 来た来た。着替えるの早いな真澄ちゃん。

「お待たせしました、宇佐美先輩。はい、あんまり冷えてないですけど、これ」

 真澄ちゃんは、俺に缶ジュースを投渡してくれた。

「サンキュー。ところで、今から家まで帰っちゃうわけ?」

 俺はジュースの蓋を開けながら真澄ちゃんに聞く。
 せっかく出会えたのに、このままさよならはちょっと残念な気がした。

「いいえ。7月いっぱいはこの近くの叔父さんの家にいるつもりです」
「へぇ、俺も日曜までこの町の姉貴の家にいるから、また会えるかもしれないね」
「は、はい。…あの、宇佐美先輩」
「ん? なに?」
「よかったら、…えっと、…明日もここに来ませんか?」
「え?」

 もしかして、これってお誘い?
 俺は少し驚いて、真澄ちゃんの顔を見る。顔が少し赤いのは俺の気のせいかな?

「あらあら。めずらしい。真澄が男の子をデートに誘ってるなんて。残念ながら明日は雨じゃないかしら?」
「う…由希子姉さん」

 振り返ると、そこには従姉妹のお姉さんがにやって来ていた。

「それで? 彼が誰だか紹介してくれないの?」
「さっきボードでぶつかった相手…」
「え? じゃあ、ナンパされたの? それとも真澄がしたのかしら?」
「そ、そんなんじゃないの! ちゅ、中学の時の先輩で…」
「もしかして、中学の時に三ヵ月ほどつき合っていた彼氏?」
「ゆ、由希子姉さん! 違うの!! いろいろお世話になった人で、宇佐美先輩」

 慌てて従姉妹の言葉を遮る真澄ちゃん。

「ふ〜ん。昔の先輩に、たまたまぶつかったわけだ。どうも。はじめまして。わたし、真澄の従姉妹で河合由希子。よろしく」
「あ、はい。こちらこそ。宇佐美まことです」

 急に自己紹介されたので、慌てて俺は答える。
 うわ〜。少し意地悪だけれど、やっぱり美人だ。真澄ちゃんとは正反対の性格の女性だな。

「いやだなぁ。敬語なんてよしてよ。まぁ、なかなかいい男じゃない。真澄の見る目も悪くないわね」
「姉さん!! ごめんなさい宇佐美先輩。失礼なことばかりで…」
「ははは…」
「あ、俊治が来たようね。それじゃぁ帰るわよ。宇佐美君、一緒に乗っる? 送って行くわよ。着替える時間くらいなら待っててあげるけど」
「え? いや、連れがいますから…」

 まあ、正確には俺が連れ”られてる”わけだが

「あ〜あ。真澄、早くも失恋じゃない。一人じゃないって、彼」
「もう! いいかげんにしてよ! あたし、本当に怒るからね!!」
「怖い、怖い。それじゃあね宇佐美君」
「ご、ごめんなさい。宇佐美先輩。それじゃぁ」
「ああ」

 …なんだかなぁ。

 でも真澄ちゃんと再会い出来たし、その従姉妹のお姉さんとも知り合いになれたし、ちょっとラッキーだったかも…って、ああ!さっきの真澄ちゃんの話、俺を誘ってくれたんだけど、うやむやになってしまった。
 由希子さんが運転するワゴンRはもう駐車場を出て行ってしまったし…。また会えるかなぁ。