出雲百景 新作"INCANATIO"にみる角松敏生の世界観... 2003/03/30 Update
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 角松敏生の2年ぶり通算16枚目のオリジナルアルバム『INCARNATIO』(インカナティオ)。アルバム発売にともなうコンサート・ツアー"TOKOYO"も無事にファイナルを迎えました。このアルバムは、彼にとっては初めてとも言えるコンセプト・アルバムで、民族としてり日本人のルーツを見据えた...そういった意味では日本人による日本人のためのポップス?、そんな試みがなされたものでした。そんなアルバムの中でも最も象徴的な作品<出雲>。この曲はアルバムに収録される以前から彼のコンサートでは度々披露されていて、そんな過去からの<出雲>の流れを振り返りつつ、この新作で彼が伝えたかったメッセージの真髄を探ってみたいと思います。

日常生活をテーマにしていると芸術的な表現ではないかといえば違うように思えるけれど、この角松の新作アルバムは、「日本」を強く意識して、そこにある自然崇拝による原始宗教...日本人の起源とか根源とか、そんな深い世界を表現しようとした意欲作だと思います。ネイチャーメイドな楽器を使えばそれだけで自然回帰かというと違うけれど、電子楽器では決して再現できない深い響きをもつ楽器を多用したこのアルバムは、世間に大量に出回っている癒し系のサウンドとは一味違う、角松風原点回帰(と言うより「気付き」?)のアルバムと言えるでしょう。
さて、このアルバムに<出雲>という曲が収められています。私がこの曲を初めて聞いたのは、2001年の冬明けきらぬ小雪舞う3月9日、神戸チキンジョージでの「青木智仁presents Extra Tour」でした。そのまま「角松敏生ライブハウス・ツアー」として行われた全て新曲というセットの中でこの曲は披露されました。折りしも日本の原風景を残したい...という映画『白い船』の製作に関っていた彼が撮影の途中で訪れた出雲大社。もともと大学でも哲学科出身の彼だけあって、精神世界への興味はあったと思われますが、そんな彼が彼の地を訪ねれば、当然のように感じることは多かったと思います。そこでの体験を元に作られた作品は、ハッキリ言って角松風プログレ!。7/8拍子というリズムとともにまるでPink FloydかYesか、はたまた往時の四人囃子かという曲に感じました。ライブハウスでのステージなので十分なリハーサルも無しに本番に突入しているだろうということを考えても、荒っぽく危く(笑)、それでも勢いだけは壮絶な感じに圧倒されました。随所で聞き取れる神事用語?がまた不思議な雰囲気を醸し出します。会場はミュージシャンのテクニックぎりぎりの壮絶バトルという迫力だけで盛り上がった感じでしたけどね...(^^;;)。
 2度目にこの曲を聞いたのは、角松のツアーでお馴染みの浅野ブッチャー祥之と梶原順の双頭ギタリストを中心にしたユニット「J&B」の、ギタリスト二人だけのアコースティック・ユニット「JとB」に角松がゲスト参加した「
JとBとK」というユニット名でのライブ(←説明が難しいゾ...笑)。私が見たのは10月23日の福岡Drum Logosでの公演。アコギ3本で奏でられたこの曲は、歌詞がクリアに聞き取れる分だけ、より強く角松のメッセージが伝わってきたような気がしました。ましてや木箱に糸を張り、二の腕で掻き上げるシンプルでストレートなアコースティック・ギターだけによる伴奏、しかも男3人が真剣に複雑なリズム・パターンと対峙している姿は、ある意味で祭りそのものって感じ。この曲の更なる可能性を感じました。演奏が終わった途端に「指が痛い」と呟いた角松には思わず苦笑しました(^^;;)。
 そして3度目は11月11日のNHKホール。角松バンドがリズム隊を成した
Groove-Dynasty 2001に角松がゲスト参加したアクトでした。Big Hornes Beeのブラス隊も加わった、まさに<出雲 Perfect Version>って感じ。アレンジも練り上げられてコンテンポラリーなポップスへと進化し、さらに沼澤尚と林立夫によるツインドラムの迫力あるバトルが会場の3000人の観衆を圧倒していました。
 このように進化したこの曲は、今回無事にアルバムに収められて正式に角松のオリジナル作品として世に出たということになります。ここで収められている<出雲>は、迫力だけで押し切った過去3回聞いたものともまた別の表情をもっています。決め手は角松自身のボーカル。さすがレコーディングだけあって(笑)、落ち着いて歌だけに専念して録られただけに、思いを込めた、どこかゆったりとした甘いボーカルは原始の心にもその根底として流れていただろう愛のチカラを感じさせてくれます。途中流れるカビ臭いシンセの音色も、時の流れを引き戻すような気持ちにさせてくれます。和太鼓集団の鼓童の元メンバーの内藤氏も参加したという中間〜後半部は、Groove-Dynastyで聴けた原始の思いを呼び覚ましてくれる感覚になる?...と一瞬だけ感じましたが、個人的に聞いた内藤氏のプライベートな部分を思い出して、正直苦笑いって感じでしたけど...。
今回のアルバム発売にともなって制作されたプロモーション・ツールにあった角松自身の解説でも、この<出雲>という曲は、ある意味このアルバムを作るきっかけとなった作品だとして紹介されています。改めてクリアな音源で聞きなおすと、過去3度の出雲体験?では感じることのできなかった、心の愛の歌というこの曲の本質に、初めて聴いてから1年半経ってようやく辿りついたという感じがします。
 いずれにしても、アルバム全般をとおして作品や録音のクオリティは抜群で、アコースティックな「響き」を大事にしたミックスなど聞き所満載です。
音楽の原点は響きです。最近私が感じている音楽の一番大切なこと...それはあらゆる意味でも「響き」だと思います。色々と響けますよ。ぜひご一聴を。

 "TOKOYO"ツアーファイナルでは、上手にアイヌ、下手に琉球の歌姫を並べて、究極の日本の原始民族バトル...というかコラボレーションを見せてくれました。和太鼓で参加した内藤氏の所属する鼓童が新潟の佐渡島を本拠地としていて、で、演奏している曲が<出雲>でしょ(^^;;;)。日本の八百の神がコンサートホールに一堂に会した...そんな絵でした。世の中の全てに宿る神は、全て共存しているとはいえ、あまり無節操に並べると、そこには想像もつかないタブーが存在しているかも...そんな、ちょっと恐ろしい想像もしてしまいました。いずれにせよ、自らのチカラを過信しきった人間界に対して、自然との共存、神々との交流という、まさに精神の時代といわれる21世紀に相応しいアプローチなのかなと感じたのは、私だけではないと思います。

※このコンテンツは2002年10月31日に"Cafe de SIMONS"でアップしたものに加筆・再構成したものです。
■角松敏生に関しては関連のコンテンツを順次アップしていきますのでお楽しみに(^^)。

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