ホームトップエッセイワインの力
ワイン本文へジャンプの力(遠州灘の風を避けて)   


 涼しくなるのが待ち遠しかったのに、やっと来た秋はあっと言う間に過ぎてしまい、今はもう師走、道行く人は気忙しく、近年になく気温が高いと言われながらも、冬の風はやはり冷たく感じられます。

浜松での最初の秋を心待ちにしたのは、「遠州灘の空っ風」が吹きだす前のいい季節に、できるだけ多くのお客様においでいただきたいという気持ちからでした。冬に吹き出す風の強さはただごとではなさそうな話でしたから、なおさら急いだのでした。

十月から十二月中旬まで、多くの方々がお招きに応じてくださり、数時間の列車の旅を苦にもされず、老夫婦が始めた第二の人生の舞台裏(?!)を見ようじゃないかと、おこし下さいました。そして、数組のお客様方にお食事を召し上がっていただいたのですが、その際に集中的にお出ししたワインが「デリカートトゥルーブルー」でした。深いブルーを基調にした美しい色合いの、シックで明快なラベルをまとうカリフォルニアのワインです。

このワイナリーの創始者は、イタリアからカリフォルニアに渡り、葡萄摘み労働者として働きながらワイン作りを目指しました。初代が抱いていた不屈の醸造魂は、三代目にして見事に花開き、今やネゴシアンに頼らず、自家ブレンド名で売れるまでに成長しました。この伝説的な醸造所が醸しだすワインが、デリカート・トルーブルーなのです。

重すぎず、軽すぎず、それでいて深い味わいがあり、弾むようなカリフォルニアの雰囲気を持った、花束の香りを放つおいしいワインです。ワインほど「気候、土、作り手、品種、歴史、醸造の家、そして樽」にいたるまで、面白い薀蓄がある「酒」はないように思います。

たった一本のボトルが語る物語は、まことに多彩で、しかも隠避でスキャンダラスな興味をもそそったりするのですから、たまりません。そのせいでしょうか、偏見や嫉妬などがまぜこぜになったTV推理物の小道具としても多用されたりして、その存在感は、ボトルの大きさをはるかに超えています。

そして又、一緒に饗される一皿が、更なる物語を演出したりもします。ティスティンググラスで含んだ一口と、料理を飲み込んだ後の一啜りでは、違った味わいを感じることもままあります。おかげで、大したこともない料理がより美味しくなったりしますから不思議です。会話が弾み、食べる雰囲気がいい方に高まれば、それは、ワインが力を貸してくれたといえるのでしょう。

お客様方とワインに絡まる蘊蓄話を、ああでもないこうでもないと語り合う時に、栓を抜いた一本のワインが話を広げ、いつの間にかグラスは世界を飛びまわり、気分はブルゴーニュになったりナパになったりします(笑)。きっとワインがうまく脇役をつとめてくれているからですね。

遠州灘の空っ風を引き連れて、初めての土地の冬がやってきます。遠来のお客様も、寒風の季節、しばらくはお出ましがないことでしょう。

遠州の冬は今、その幕が上がったところです。 (2006.12.15.)



ホームトップ>  エッセイ  浜松雑記帳    花  料理とワイン