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442年ぶりの月


月の下方左の小さな粒が天王星
2022年11月8日、442年ぶりという皆既月食と天王星の惑星食が見られました。442年ぶりなんて言われても、、と思っていましたが、その年は織田信長の時代だということを知り、しかも本能寺の変の2年前とわかれば、何だか気持ちが騒ぎます。

室町幕府崩壊後、信長は長篠の戦に勝利し、時代の寵児にのし上がりました。その後の戦続きの日々によって残虐さに慣れ、平静さを失いつつあったおのれの精神のありようを、どこまで感じていたのでしょう。

信長は、どこかの城から、月が欠け赤黒く不吉な色に染まっていくのを眺め、心が暗くなっていたのではないでしょうか、2年後の「本能寺の変」に、少しでも思いが至ることはなかったのでしょうか、、この月食に関する記録文書の存在を聞いたことがありませんから、ただ勝手に妄想をふくらませるしかありません。

月が欠け始めた時、まだまだゆっくりと欠けていくと思っていましたが 、ちょっと目を離している間に半分ほどになった月に驚き、カメラの横に釘付けになりました。暗くなっていく月が赤銅色に染まりながら変化していく様子は、まさに神秘的です。全面が赤黒く輝いた月は、やはり幸せルンルンという明るさではなく、なにか不幸を呼びそうな 黒を含んだ不吉な沈んだ色に見えました。

しばらくして月の下の方にほんの小さな砂粒、いえいえもっと小さい塩粒のようなかすかな丸 がかろうじて見えました。その粒は赤黒い月の中に潜り込むように入って消えていきました。天王星の惑星食が始まったのでしょう、、再び月から出てきた星は、月の明るさが戻りつつあるために、肉眼ではもちろん、カメラでもとらえることが出来ません。高感度なレンズと高い画素を持ったカメラでも写し撮れたかどうかと思うほど、小さな小さな天王星でした。

月が欠けていき、また元に戻るまでの時間は3時間ほどですが、刻々と変わる月を見ていると、その足の速さに驚かされます、ズンズンずんずん、、という感じで変化していく様子に無常を感じてしまいました。この速度で、「人の命」は、終わりに向かって進んでいくのだと気がつきました。最終時期に入った人生の月日、あと何日あるかどうかももしれない命、いやおうなく速いスピードで終点に向かって進みつつある生きている日々、、残り時間をまっとうして、満足してゼロに行きつきたいものだと、あらためて思わされた皆既月食の夜でした。(2022.11.08.)

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