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ツバメの巣 

玄関を出ると、目の端を何か黒いものが横切ったような、、トシをとると、目にはいろいろな面白い現象が起きるものですから、さほど気にもとめなかったのですが、今度はかなり大きな物が飛んだという感じでした。見上げると庇の奥深い所に、なにやら小汚い固まりがひっついています。黒い物はそこから、今度ははっきりと外へ飛び去りました。鳥です。巣の周りにはよごれたドロがあちこちに付いています。「ツバメの巣かも!」

連れ合いおジジに報告すれば、少し前に壁の汚れに気づいたから、ホースの水をぶっかけたけれど、うまく取れなかった、などと言います。ツバメの巣なんて見たことも聞いた事もなかったというのです、なんという「情緒の欠陥」、、昔の人間とも思われません。まるで今の若者のように物知らずです。

「昔、軒下などにいっぱい巣を作っていたでしょ?梅雨の頃になると、街中のあちらこちらでスーイスイと飛んでいたやないですか、知らんかったん?」

なんて言ってみたところで、生まれた時からガスも水道も完備された大都会のコンクリートのお家で育ったおジジですから、ツバメが飛び交う軒場、などというものが想像もつかないのは仕方ないことかもしれません。北陸の雪深い田舎町で育ったおババにとっては、燕そのものは身近な鳥でした。学校への行き帰りに歩く雪よけの「雁木」の梁には、ツバメの巣がいっぱいくっついていて、たくさんのツバメ達が、低く飛んでいたように思います。

確かに泥を唾で固めた巣はキレイとは言えません。「燕の巣」というと、迎賓館や宮廷のおもてなしメニュによく登場する「燕の巣のコンソメ」を思い浮かべてしまいますが、あの「巣」は、タイやベトナム、マレーシア、などの限られた場所に生息するアマツバメの巣であり、まったくの別物です。このドロ色の巣とは似ても似つかないものなのです。巣の周囲には試し作りしたとみえる泥の固まりがあちこちに付いていますから、汚ながりのおジジが水をかけたのも、わからないではありませんが、、

この頃は燕を見かけることが少なくなりましたが、ツバメは毎年、3月から4月頃に東南アジアから日本へやってきます。飛行能力が優れていて、最高時速は200q以上、1日に約300キロも移動できる航続力を持っているのだそうです(まるで軽飛行機のようです)。ジジババの家の玄関軒下は、割合深く、静かで、人の出入りも少ないですから、安心して巣作りをしたのかな、、と思っていました。でも、それがそうでもなさそうでした。

聞くところによれば、ツバメは、カラスなどの天敵から巣を守るために、人の出入りのある所に巣を作るのだそうです。民家やお店の軒下、駅や学校など、人が集まる場所に巣を作る習性があるということです。そうすると、人の出入りが多くないこの家に巣を作ったのは、失敗だったのではないでしょうか、カラスが狙わないようにと祈るしかありません。

ツバメは、蚊、ハエ、蛾、シロアリなど、人間に害を与える虫を、1日に100匹以上も捕って餌にするので、昔から「益鳥」として大切にされてきました。「ツバメが低く飛ぶと雨が降る」と言われていますが、これは雨が降る直前には空気が湿度を含むために、餌となる昆虫がその湿気のために高く飛べなくなるので、それを捕えようとするツバメも低空を飛ぶからなのだということでした。そう言われてみれば、育った町は雨が多い所でしたから、いつもツバメは子供だったおババの前を、低くスーと横切って飛んでいたような気がします。

お隣のおババさまに「ツバメが巣を作ったんですよ!」と報告しました。
(ジジが水をぶっかけたことは、勿論内緒です)

「前から気がついていたよ〜良かったネェ!良いことがあるだよ〜、、」

昔から日本では、ツバメは人を呼ぶ幸運の象徴と思われていたようです。ツバメの巣のある所には必ず人が集まる。商売繁盛の象徴でもあったのだそうです。でも、ホンマでしょうか?商売繁盛とはまったく縁のない、終わりの間近いジジババの住む家の、ひっそりした玄関なのです、、

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インターネットの物知りマン曰く
動物は少なからず不幸な家にはいつきません。運の悪い家から動物はいなくなるものです。ツバメが巣を作ったら、その年はラッキーな年だと思いますよ。

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水をぶっかけられても、巣を出て行かず、頑張って居つき、今やしっかりと子育ても始めたらしく、ビービーという子供の鳥の声がせわしなくするようになりました。

商売繁盛はともかく、「幸運」は舞い込んでほしいなぁ、、、なんて、巣を見上げながら、つい思ってしまうのは、「欲深かおババ」の証拠なのでしょう。

雨の晴れ間に吹く爽やかな風が心地よい6月は、もう今日で終わります。7月に入れば、子ツバメも巣立っていくのでしょう、また蒸し暑い夏が始まります。(2013.6.30.)

 (2013.7.07.)
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