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降ってきた鰻のお話
遠州灘から吹きつける乾いた風が、かろうじて残った庭木の葉っぱを吹き飛ばしている冬枯れの寒い日のことでした。蒼く晴れた高い空で鳶が2羽、獲物を取り合って左右、上下に飛び騒ぎ、その下でカラスがウロウロとおこぼれを狙うように飛び回っているのが見えました。
ドッスン!!という妙な音が居間に響きました。何かがガラスにぶち当たようです。

覗いてみると、30センチほどの小さなウナギが「しの字」になって中庭に落ちていました。鳶の獲物はウナギだったようです。追いまわされた方の鳶は低空飛行で逃げきれず、ガラスに激突し、獲物をふり落としてしまったようでした。

浜名湖につながっている近くの川から取って来たのでしょうか、でもよく見るとお腹の皮が白い、天然のウナギはおなかが黄色いと聞きますから、これは養殖ウナギでしょうか。浜名湖周辺の養鰻池から鳶は盗んできたのでしょうか、、、
からっ風の冷たさは生き物の力を奪い、獲物がなければ明日が危うい、そうなれば養鰻池にうごめく鰻をかすめ取って飛び上がることなど、冬の鳶の日常なのかもしれません。

ウナギが降ってくるなんて、さすがは鰻の名所浜松!

じっと鰻を見つめていた夫が言いました。「あの鳶に餌つけをすれば、毎日ウナギを持ってくるかもしれんな」、、えっ?!どうやって鳶に餌つけをするん??(笑)。
「日本昔話」のお話のような発言に大爆笑です。

翌朝、夜中の氷点下で凍り付いたような鰻を、大きなのら猫がやって来て、一心不乱に食べた挙句、尻尾部分を半分残して満腹し、のっそりと去っていったあと、カラスが残りをさらっていきました。

遠州灘から近く、土地がなだらかなこの辺りは、寒風が遮られることなく東に向かって毎日吹き抜けていきます。鳶は次の獲物をまた狙うことでしょう。ステイホームのコロナ禍に笑いを運んだ冬の小さな事件でした。(2022.2.01.)

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