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曇り日のナイスミドル


雨が続き、蒸し暑い梅雨の季節でも、曇り日で湿気が少なく、雨の落ちない日があったりする。そんなある日、久しぶりにクールな熟年男性にお目にかかる機会があった。しかも、関東の、いわゆる「東男」である。

約束の時間ジャストに玄関前に立たれたのは、60にチョコチョコッという感じの落ち着いた物腰の人だった。柔らかな動きと響きのいい声で、ゆったりと話をされる。淡々と用件を話され、順をおってよどみが無い。一つ一つの所作がいちいち引っかからない、要するに角が無いのだ。そうかといって、相手におもねるふうは微塵も感じられない、このナチュラルさはどこからくるのだろう。大阪のザワザワとした雰囲気のオトコ達とはどこかちがう。あたりに一瞬、ハイカラな東京の風が吹く.

普段、「東京モンはイナカッペばっかしやん!地方から出てきた人達が集まって出来たような雑多な荒い世界が東京やし、はんなりした文化と人間の素養の高さでは、伝統ある関西とは比べもんにはならへん!」なんて言うていた自分が、なんやしらん後ろめたくなるような、まさにオババのカルチャーショック!だいたい、このトシになって、まだカルチャーショックなんて喚いて、驚き慌てていること自体が、すでにアカン!

最初からパンチをくらい、ジャブを小出しにされた挙句、アッパーカットで仕上げされたような気分で、しどろもどろになって一向に話がうまく回転しない。
方向転換して、はやばやと奥の手を出すことにした。タベモンならまだ巻き返しが効いて、先手が取れるかもしれへんし、、

せっかちの連れ合いが、伝(つて)を頼って手に入れてきた「仔牛の脛骨」からとったダシは、うまく味が出て、腕がイマイチのオババのスープでも本物の味に近くなったらしく、冷たくしたビシソワーズとサンドウイッチを
「これは美味しい、、いい味ですね、、」と、まことに素直に舌鼓を打ってくださる。

関東人は濃い味好きのベロ音痴、あの「関東ウドン」を見てみなはれ、食べる気ィしまへんでェ」などと揶揄していた大阪オババはもう、黙ってしまうしかない。

少し間をとりながら、話題も豊かに、耳触りのいい言葉で、パソコンを始められた頃の苦労話や、趣味でされているの手びねりの陶芸の事もさりげなく、標準語の美しい日本語がするすると繰り出されてくる。

昔しゃべっていたことのある言葉なのだけれど、大阪人の嫁ハンになってからもう40年、すっかりしゃべり方を忘れてしまったものだから、もういけまへん、顔は引きつってくるし、言葉はワヤワヤ、、、われながら情けない有様とあいなってしまう。

途中、外出先から忘れ物をとりに飛んで帰ってきた素っ頓狂な連れ合いは、威儀を正して挨拶をされるお人に「いや、イヤ、はぁ、ハァ、、ゴニョ、ゴニョ、、、」と、言葉にもなっていないことを言いながら、そそくさと又出かけて行く、、ナンチュウコッチャネン!!と思ってみてももう遅い(笑)

子供の頃泣き虫で引っ込み思案だった弟が、一家を構えてから、大勢の人達の前で挨拶したり、会議を取り仕切ったりしているのを見て、仰天したことがあった。男性は大人になってから、激しく成長する人と、まったく子供のままで止まってしまう人とに二分されるのではないかと思ったりした。

エッ?!女?、、女はみんな激しく成長します!!

夕食時、大阪モンは言いました。

「これ、ボクの買うてきた骨でダシとって、作ったん??フ〜ン、、やっぱり骨やな!これは外へ食べに行かんでもエエわ!家で結構や!」

「・・・・」

ナイスミドルとまでは申しません、せめてグッドジジィくらいはいってもらわんと、、

エッ?よそさんではちゃんと話す?!きちんと挨拶する?!ホンマですか?

アンタかて、気取って、口廻らんようになったんやろ!おんなじやないか!

梅雨どき、つかの間の曇り日に吹いた爽やかな風は、翌日、台風になった。2004.6.12.
   

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