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月は白かったんや、、
寒暖の差がことのほか激しい今冬です。強烈な北西風が吹きすさぶ寒い夜が有るかと思えば、生暖かい闇の夜があったりして落ち着ません。そんな冬のある夜、歩きながら空を見上げると、黄色いお月様がボンヤリと大きく見えていました。毎晩の散歩道は見上げれば月がついてくる、そんな空間が広がるマリーナ近辺ですから、昼間にあったいろいろなことを思い返しながら歩いているとけっこう楽しいのです。

しかし月が二つに重なって見えるようになり、だんだんボンヤリするようになってきますと気持が少し落ち込みました。いよいよ老化現象の始まりです。そういえばパソコンの画面も小さな字がスッキリと見えないようになってきました。いちど眼科に行かなくては、、白内障に違いないと思いつつも「眼」の手術なんて恐ろしい、失敗でもされたら失明するかも知れない、そう思うとなかなか受診する気になりませんでした。手術を受けられた方々はまわりにも沢山おられましたから、いろいろ聞いてみるのですが、あまりはっきりとしたご意見が聞けないでいました。術後5年ほど経過した方からは、まただんだん視力が弱ってきたとの話も聞きました。なかなかふんぎりがつきません。

平成30年も終わりに近づき、運転免許の更新が来年であることに気づきました。3年前の警察での視力検査はやっとOKが出ていましたが、0.5と0.7の視力では今度は難しいかもしれない、、やっと決心して眼科に行きました。

ネット検索ではじつに様々なご意見が載っており、知識も増えましたが、恐怖も増してきました。術後の「眼内炎」発症などで失明に至る人の割合は0.05%と知りました。その0.05%に自分が入らないという保証はないのですからやはり恐ろしいのです。いつもの「先走り」が影を潜め、臆病風に吹かれっぱなしでしたが、運転の事を考えるともう時間切れですから、覚悟しました。

まず左目からです。手術当日、術前処置ののいろいろがすみ順番が来て手術台にのりました。上から顕微鏡とおぼしき器械がが~っと降りてきて、目の前に閃光が走ります、自分の心臓の音がやけにはっきりと聞こえます、不安と極度の恐怖感は沸騰寸前でした。わずか20分ほどの時間ですが、疲れ切ってしまいました。疲れたのは執刀医先生の方でしょうから、患者が疲れたとなどと言っては叱られそうですね。

点眼や投薬、保護眼鏡や寝るときの眼帯など、手厚いケアは2週間続き、二回目の右目が済んで10日が過ぎました。「薄紙を剥ぐように、、」という言葉がありますが、まさにその言葉通り、日に日に世界が明るく新しくなっていくようです。視力は1.2.と1.5にまで回復しました。

顔を洗って鏡を見て愕然としました、ウワ~ッ!皺、しわ、、シワがくっきりといっぱいいっぱい見えたからです。霞がぬぐわれたような新しいレンズの力です。家中どこを見ても黄色みがかった汚れがなくなり、くっきりと白色にみえます。キッチンの戸棚の手垢の跡などが気になってたまりません。これは年末にかけて忙しくなりそうです。

夕刻の散歩道で空を見上げました。まん丸に近いお月様がくっきりと銀色に輝いていました。

「お月様は、ほんまは白かったんや、、」

幸せな気分が胸に溢れました。この生まれたての新鮮な光景や色を、しっかり覚えておきましょう!いずれまた曇ってくるかも知れない日のために、はっきりと記憶しておかなければと思いました。失明0.05%に入らずに終わったことを感謝しながら、これからの日々を慎重に、楽しく暮らさなければと思っています。(2018.12.23.)

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