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マカロニグラタン 


今からもう50年以上も昔のことです。
新潟の田舎町の高校から京都にある大学を受験した時のことでした。京都までは汽車に乗って15時間もかかった時代ですから、出張試験があるという金沢市で試験を受けることにしました。

日本海から雪が吹きつける寒い日でした。父親と列車に乗り、夕方になって到着した旅館では早めの夕食をいただきましたが、少し時間をおいて熱々の平べったい器が運ばれてきました。すると、何とも言えない良い匂いが部屋中に立ちこめました。それは今までにかいだことのないハイカラで素敵な香りでした。

熱々をホークですくい、口に入れて、ひっくり返りそうになりました。トロリとしたソースがマカロニにからんで、「美味しくてほっぺたが落ちる」とは、こういう事を言うのでしょう、今風に言えば「めっちゃ うまっ!」それは18才になるまで食べたことがない「マカロニグラタン」でした。

戦後12年ほどしか経っていなかった日本は、まだ貧しく、洋風のお料理が家庭の食卓にのぼることなど、田舎では特にマレなことでした。時代は進み、今やグラタンソースをインスタントに作り上げる素が、どこのスーパーでも売られるようになりました。そして、マカロニグラタンは、ごくありふれた料理になってしまいました。

縁あって結婚した人は、昭和一桁生まれにしては珍しく洋食好きでグラタン好き、一緒に暮らしていくうえで、食の好みが同じだということは実に幸運でした。

共に暮らして45年、「マカロニグラタン」は、何回もあった夫婦のゴタゴタを、その都度救ってくれました。食いしん坊の主は、好きな物が出てくると、今までの不機嫌を忘れるという「特技!」を持っていましたから 、つまらないもめごとを引きずらないで済んだのです。

雪の日の受験から半世紀もたち、二人とも老いて「一寸先は闇」の日々になりましたが、グラタンが美味しいと思えることをを大切に、「オマケの日々」を楽しんで生きていきたいと思っています。

(2011.11.05.NHKTV放映、今日の料理エッセイ「忘れられない味」より)

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