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狂乱の夏 (今夏の異常気象)


ポツポツと前面ガラスに雨粒が当たり出しました。やっぱり、、雨か、、と思いながら関越自動車道と北陸自動車道の分岐点に向かって走っていました。新潟県の高速道路は、毎冬の降雪と多雨のせいで、錆びたチェーンの鉄色が路面にこびりついたままで、アスファルトも古くなっていますし、チェーン装着走行による表面の傷みがひどくて、ガサガサに荒れています。車に響く振動が滑らかな「新東名」などとは違い、ひどくガタガタしています。それに山間部はまだ「対面通行」の部分もあり、走行が快適ではありません。何となく舌打ちしたくなるような気分で走っていました。すると案の定、またたくまに空は暗くなり、不気味な黒雲が視界いっぱいに広がっていきます。「ヤバイかも、、、」

あっという間のことでした、バケツをひっくり返したなどという形容詞は甘っちょろいんだと納得させられるような、もの凄い雨が滝のようにフロントを叩き始めました。満水の風呂桶の水を一気にぶちまけられたような感じです。たちまち前は見えなくなりました、前を行く車のテールランプも、ぼやけて赤色がにじんだ小さなシミのようになって、形さえ定かではありません。中央の白いラインも、落ちてくる雨に沈んでしまい、何もみえません、ただただ水水、水だけ、もの凄い雨です。車の中は滝壺に入ったような状態で、前後左右のガラスに叩きつけられて流れ落ちる雨だけしか見えません。自動設定のワイパーは、狂ったように左右に振れています。

スピードを50Kに落としましたが、道路がはっきりと見えないのですから、このまま走るのは危険です。背中に悪寒が走ります、死の危険にさらされていると直感しました。ライトをハイビームにすると、側道の柵らしき物がかすかに見えましたから、左にじわじわと車を寄せました、時折しぶきを上げてトラックが横を走り抜けていきます。もの凄い風で道路の横に立っている木々の黒い影が真横に倒れるように吹き付けられていて、全体が灰色です。自分の車が右からの風を受けて持ち上がりそうな気配を感じました。

もう限界です。避難しなければとんでもないことになる、ハザードライトを点滅 させながら少し広くなっているように見える路肩の待避線をかろうじて見つけて、そこに停車しました。数メートル前に同じような状態で停まっている車がありましたから、少しホッとしました。するとこんどは後の方へ次々と車が停車し始めました。「ぶつからんといて!!追突せんといて!」と祈るような気持ちで後方をうかがっていました。車の前方へもヨレヨレと入ってきて停車する車もあります。ハザードが必死の感じで点滅しています。ゴ〜ッという風に、車ごとまた持ち上がりそうになります。もっと小さな車はさぞかし怖いだろうなどと思ってしまいます。余計なことを考えたらアカン、運転席でハンドルを握りしめながら、ひたすら首を縮めておりました。携帯電話をかけようとか、メールを誰かに打とうなどとは微塵も考えなかったのですから、パニックに近い状態だったのでしょう。

少し小降りになってきたような気がしました。心なしか前方がかすかに明るくなっているようです、もうすぐ通り過ぎる、、そう思いながら前を見つめていました。ワイパーはあまりのハイスピードの振れで、壊れるのが怖かったので止めていたのですが、おそるおそる動かしてみますと、前方の車のライトが、形になって見えました「助かったかも、、」

2台前の車が、待ちかねたといった様子で走り出しました。でも次に続く車はありません、まだみんな停車したままです。「急がば回れ」と言うじゃないの、、もう少し待とう、ものの15分くらいだったのでしょうが、長い時間に感じました。やっと雨脚が弱くなりました、慎重にスタートしてみます。白線は何とか見えますから行けそうです。そろそろと走り続けていますと、オレンジ色の光がバックミラーにはじけるようにバァ〜ッと映ります、パトカーでした。大きな警告板をく揚げています。

緊急事態!!車間をとれ!!」と、読めました。

今になってやっとやってきたのです。肝心なときの誘導はなくて、今頃かいナ、、アホらし、、パーキングやサービスエリアの出口に隠れ潜んでいて、スピード違反車を取り締まっているのですから、こんな時はすぐさまとんで来て先導するくらいはやってほしかった、、一人でブツブツと毒づいてみましたが、あんなに急な豪雨突風では仕方ないか、とも思いました。まぁ警察なんて当てにしたらアカン、、自分の身は自分で守らねばならないのだと、心底思わされたゲリラ的豪雨の中の走行でした。

各地での猛烈な高温、それに竜巻や豪雨のニュース映像ばかりが、連日TVに流れていた今年の夏 でした。漏れ出した福島原発の汚染水の処理もうまくいかない日本に、もうこれ以上のバツは与えないで下さい、もう少しの猶予を下さいと、神に祈りたい気持ちにさせられた2013年狂乱の夏が、やっと終わりに向かいます。(2013.9.8.)
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