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幸運のそばで
深く考慮して終の棲家を決めたたわけでもないのに、住んでみると、浜松は、ほんにいい所でした。晴天率が日本で1番か2番と聞いていましたが、たしかに雨が少なく空気が軽くさっぱりと乾いていて、いつも微風がそよぎ、木々の枝を僅かに揺さぶっています。

郊外の住宅地域は、塀や仕切りが禁止され、小さな樹で仕切られたポーチには車が無造作に停められています。なんとなくカリフォルニアに似た雰囲気を感じさせます。近くにはガーデンパークがあり、浜名湖が広がっていますから、蒼空がブワ~ッと広がり、そして高いのです。お天気のいい日には、湖面が空の青さを映して真っ青に染まり、白い波がザワザワと岸辺に寄せて光っています。ここに新しく住まいを作り、移り住むことが出来たのは、晩年の幸運だったと言わなければなりません。

遠州灘に近い平地ですから、大きな夕陽が、毎日違った色で落ちていき、同じではないことに気付きました。大気の乾き具合で光の輝き方は変わるのでしょう。陽が沈めば、西の空のあかね雲はすぐに姿を崩しはじめ、淡いピンクの雲が崩れながらにじんでブルーに溶け込んでいきます。あたりは仄暗くなり、青から濃い藍色に染まった空は、やがて黒いスクリーンとなって家々の灯りを浮かび上がらせます。

夏には花火が盛大に打ち上げられます。夕闇が迫ってくるころ、どこからともなくドドーンと音がし始めます。近い町の花火は、周りに高い建物がない住宅地ですから、火の妙技を間近に堪能することができます。大輪の花が一瞬煌めいては消えていく、花火のはかなさが湿っぽくなくて、なぜかとても心地いいのです。

でも、いいことばかりではないのです。それは、「遠州灘の空っ風」、冬場の強風にはひどく驚かされました。ほぼ毎日「強風注意報」が出るのですからたまりません。北西からの風が強いので、このあたりの家は、どこも西側の窓は必要最小限につくられています。それなのに、物知らずの老夫婦は、西側をめいっぱい開けて中庭を作ったのですから、バカですね。植えた木や花がみんな東側に首を曲げてひぃ~っと悲鳴を上げています。それでも、負け惜しみの強い二人は「ひとつくらい気に入らないことがあったっていいやんね、80%満足やったら、いいことにしよう」などと、今のところは強気なのです。

昨日は浜名湖ガーデンパークの周遊道路から、真っ白な帽子をかぶった富士山が遠くに浮かんで見えました。強い風が雲を吹き散らしたせいでしょう。透明さを増した浜名湖に夕映えがキラキラと映って、小舟が一つ、二つと、シルエットになっていきます。

すっかり陽が落ちて風向きが少し変わりました。明日も晴れるのでしょう。マリーナの静寂は深くなって、青い夜が更けていきます。(2015.1.25.)  

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