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繰り言三昧 
30年程前の金融界と総会屋のせめぎ合いを描いた映画「腐食金融列島」をTVで再放送していました。要約すれば、大手大銀行と総会屋とのつながりを断とうとする若手銀行マンの奮闘を描いたお話です。総会屋への多額の利益供与が発覚し、銀行に東京地検特捜の捜査が入ります。これに対してあらゆる手を使って阻止しようとする反社会的勢力と利権の黒い動きが克明に描かれていました。日本が古いしがらみを脱してスマートな国になろうとあがいていたこの時代が、良くも悪くも、今の日本の原点になったように思えてきました。

映画に出て来る大銀行の大ボスが、なにかにつけて持ち出すのが、小道具としてのフランスワインのボトルです。大金持ちを表す物の一つとして使われたのでしょうが、ラツール、ペトリュス、ロマネ、、せっかくの銘品の扱い方があまりに安直、しかも荒っぽくて驚きました。ただただ舶来物を有り難がっていたあの頃の日本人が憐れに見えてしまいます。あの頃は、日本が今の中国のように西欧諸国に追いつき、あわよくば追い越そうと、必死に頑張っていた時代でしたから仕方の無いことなのでしょう。

さて、映画の講釈はここまでといたしましょう。

バブルが崩れ、ようやく戻りかけた頃に来たリーマンショック、そして東北大震災、なかなか経済の回復が出来ない今、ワインは、余計な蘊蓄や伝統などを重視しない若い感覚が仕入れるアメリカ産、南米産、アフリカ産、などに人気が集まるようになってきました。ラベルの意匠もモダンに様変わりして、スーパーの棚に並んでいます。実際にクラシックなワインと飲み比べても、遜色の無いものが多くなってきました。

そして人々は、手の届かない尊大な物を軽蔑し、無視するようになってきました。今、日本は格差への過剰な反発と他人への嫉妬と不寛容であふれています。ケチな金遣いをした都知事をよってたかって袋だたきにする、、国全体が灰色の空気に覆われているかのような、嫌な息苦しさです。

すっきりと爽やかなカリフォルニアワインで気分を変えましょう、、

サンフランシスコからヨセミテ方面への高速道路脇には風力発電用の馬鹿デカイ風車が、低い丘全体にいっぱい立っているところが沢山あります。いつもグルングルンと、早すぎもせず、遅すぎもせずのスピードで、乾期で草のない茶色い丘のうえで風任せに回っています。20年も昔にみた風景ですから、今はもっと増えているのでしょう。無駄をそぎ落とした風車の形は、オランダやスペインで見られるような情緒あふれる時代物ではありません。何事にも機能優先のアメリカを感じさせる飾り気の無い代物です。

途中で高速を降りてナパに向かえば一面に広がるワイン畑が青い空とともに現れます。ワイン列車も走り、観光バスが次々に到着し、急速に賑やかになりました。昼夜の温度差が大きく、カラッとした気候は、ワイン以外にもトレッキングや乗馬など、魅力が一杯です。ここで醸し出されるワインは、今やブラインドテストで金賞受賞の常連となりました。ワイナリーでは、近代的かつ清潔な工場で厳重な温度管理のもとにヨーロッパを凌ぐ勢いでワインが製造されています。天候の変動がヨーロッパほど酷くないからかも知れません。一定の収穫が計算出来る土地柄もあるのでしょう。

多民族で成り立っているアメリカは発想が多様で面白く、大胆です。利益になるとなれば、短期間に爆発的にワイン畑が増え、周辺のレストランも花盛りです。何事においても、霞ヶ関政治の思惑があり、規制の対象となってしまう日本は、新事業の着手が遅れ、後手に回ってしまいます。決断を早め、瞬発力をつけていかないと、周辺の途上国にやすやすと追い越されてしまいそうです。何事にも横並びで、他の思惑ばかり気にする湿り気のある日本式の足並みでは、かの中国に追い越されて、ドンドン後退してしまうのではないかと心配になりました。

古い日本映画の小道具のワインは、遙かなるカリフォルニアへの想いを呼び覚まして、梅雨のほの暗さを払いのけたい気分にしてくれました。爽やかなワインの一杯で、心に青い空が広がります。映画とワインで暮れてしまった小雨の日曜日、らちもないおババの繰り言です。(2016.6.12.)

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