Homeエッセイ集目次>バイクのおはなし

バイクのお話 

50ccバイクは最高速度が時速30キロです、遅いですよね。イラチの連れ合いは、走り出せばすぐに50キロを越えてしまいますから、運悪く取締りに出くわせば、即座に捕まってしまいます。たまたま警官の目にとまったバイクが餌食になるのですから、なんだか腹立たしいですよね、それに50ccバイクは、小さい割には排気音もかなりうるさいように感じます。そんなわけで少しはスピードが出せる110ccバイクを愛車にしてきたのでした。そのバイクを50cc に買い換えると申します。エェ~?なんで~?

ある日のこと、連れ合いは郵便局まで出かけました。行く時は順調に走っていたバイクが、帰る時になってエンジンが掛からなくなったのだそうです。いろいろやってみましたがウンともスンともいいません。しかたなくズルズルと引きずって帰ってきたのですが、エンジンのかかっていないバイクの重さは、かなりのもので、老人には過酷です。運悪く猛暑日の午後ということもあって、ひどい暑さとバイクのあまりの重さに疲れ果て、フラフラ、ヨレヨレ、ヨロヨロし、道端で横倒しにしてしまい、それを引き起こすのにえらく難儀したというのです。いかに重かったか、しんどかったかを、汗ビッショリで口をとんがらかして状況報告をする口調は、だんだん罵詈雑言へエスカレートしていきます。とてもお聞かせできません。

郵便局の隅っこに置いて、バイク屋さんに電話して取りに行ってもらったらよかったのに、、と言いかけましたが、かえって火に油を注ぐようなことになりそうなのでやめました。自分のしたことに、なにか言われることが何より嫌いなお人です。この出来事ですこしは自分の体力不足に気がついたなら、それもよかったのかもしれないと思いました。

なにせこの運転手は後期高齢者年齢をとっくに超えた老人なのですから、バイクで出かけていくたびに、家にいる私は、遠くから聞こえてくる救急車のピーポーにハッとし、警察から電話がかかるかと気になり、帰ってくるまで落ち着かないことでした。でも、それだけで乗ることをやめるようにと言う気はまったくなかったのでした。バイクが好きなのは私も同類だからです。細い小道を行くには便利この上なく、駐車場にも困りません。それに、風を肌で感じるバイクの爽快さは、それはもう、、捨てがたいものですから。

考え方も、性格も、トラブルの解決の仕方でも、何一つ共通点のない二人が、たった一つ、「動くものを動かすのが好き」ということだけで、50年以上も何とか一緒に暮らすことができたという、まっことバカバカしい夫婦です。バイク好き、クルマ好き、飛行機好きは「共通項」なのです。

1960年以前には、今のような自動車学校などというものはありません、車の免許を取るには道路で無免許運転をしながら車の運転を練習するしかありませんでした。試験場で2、3度コースを走り、あとはぶっつけ本番の試験を受けるのですから、合格するのは至難のワザでした。その試験に一発で合格したという、この単純な大昔の話題で盛り上がり、小さな優越感で老夫婦のヒモがつながってきたと言ったら、大笑いされてしまいますね。「大型自動二輪免許」は、そういう時代に普通自動車免許のお土産のようにくっついてきた免許でした。

「停めてあるバイク、少し大きいですね、へぇ~?ご主人が乗られるんですか?」
「私、もうすぐ○○才ですねん」
「エ~ッ??お若いですね!とてもお歳には見えません!」


そうおっしゃっていただくことで、嬉しくて若返った気分になり、実際、気持ちが若くなっていたのでしょうが、特別に筋肉を鍛えていたわけではありませんから、実年齢には勝てるはずもありません。ここ10年ほどで、腕や脚はへたってたるみを生じ、力が出なくなっていることを、本人が一番わかっていたのだと思います。今まで健康寿命を維持してきているだけでも褒めてあげないといけないのでしょう。

近いうちに、赤色の可愛らしい50ccバイクがやってきます。赤色はどこでもパッと目立つからだそうです(笑)。
(2015. 9.21.敬老の日)

Home>旅目次  浜松雑記帳  花目次  料理ワイン目次  エッセイ目次