1990年の大復活

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「うっぷん晴らしですか」 “元祖・無責任男”、植木等おおいに語る

91.02.06 朝日新聞夕刊 

植木等が出した久々のアルバム「スーダラ伝説」がヒットしている。昨年暮れには2

3年ぶりに「紅白歌合戦」にも出場。「スーダラ節」から「ハイそれまでよ」まで、懐かしい14曲をメドレーにしたシングル「スーダラ伝説」も若者たちのロックにまじって売れ行き上位に入っている。ヒットに戸惑う元祖「無責任男」に話を聞いた。

「売れるなんて思ってもいなかった」と植木はいう。「植木等なんて、もう時の人

じゃないと思ってましたから。映画の『無責任男』シリーズが終わってからずっと、俳優としてごく普通の人の役をやってましたでしょ。再登場を求めている人がいるなんて信じられなかった」クレージー・キャッツ主演の東宝映画「無責任男」シリーズは昭和37年の「ニッポン無責任時代」から46年の「日本一のショック男」まで、計29作に及んだ。

「高度成長、モーレツ社員。そういう時代ですよ。『無責任』とはいっても、他人

の半年分の仕事を1カ月でやっちゃうとか、人が寝てる時に働くとかしながら、いかにも気持ち良さそうに泳ぎ回る。これが見ていて良かったんでしょうね。実際の社会にそんなやつがいれば、はみ出し者ですけど」

それがまた今受けるのは?「今は死ぬまで働いても、都心に家1軒持てない時代。定年まで見通せてしまう。ストレスはたまり放題でしょう。そんな時だから『スーイ、スーイ、スーダラダッタ』がうっぷん晴らしになるんじゃないですか」

「スーダラ節」を出した時に34歳。それから30年ぶりのレコーディングは「当時と同じ声が出るはずないと思ったけど、出ましたねぇ。しかもあの手の歌はこう歌うということは、今のほうがよくわかってる。歌いながら笑うというテクニックは、いまだに僕の専売特許じゃないですか」

 最近、取材で健康法を聞かれることが増えた。「まだそんな年のつもりはないんだけどね。どういう年寄りになるか、僕も今から楽しみにしてるんです。世の中すべて経験していないことがない。何事にも深い理解と同情を抱き、それでいて夜な夜な出掛けて行く、とかね」と笑う。酒は飲まない。たばこは吸う。「性格はどう考えても“陽”ですね。“陰”なのは寝ている時くらい。芝居でもワルの役は来ない。詐欺師を演じても必ず成功する役割。安心して見てもらっていいです。逮捕される役は引き受けない。安心して見ている人に失礼だから」

アルバムのヒットを受けて、5月以降に久々のコンサートを予定しているとか。秋に

は映画「平成の無責任男」製作の話もある。

 「CDを出しっ放しというわけにもいかない。アフタケアをしないとね」

朝日新聞社