「太陽にほえろ」のころ

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松田優作といえばジーパン刑事である。ジーパン刑事といえば、「太陽にほえろ」での殉職シーンである。今や日本の役者バカとしてその地位を築きつつある竹中直人も、その昔笑いながら怒る男などとともに、かつらとサングラスで「なんじゃ、こりゃ」といってネタにしたあのシーンである。今やビデオでしか見ることができないけど、国民の30%はあのシーンをなんらかの形でみたのではないだろうか。

あのシーンを見たのはまだ小学生1年ごろだった。すでに「太陽にほえろ」は日テレの看板となり、裏では猪木の新日本プロレスが「金曜8時の理論」を構築していた。そうそのころ猪木は狂虎タイガージェットシンと死闘を繰り広げていたころではないだろうか。なぜかわが家では「太陽にほえろ」を見ていた。学校でも「太陽にほえろ」かプロレスをみるのが一般的だったような気がする。

マカロニ刑事のころはリアルタイムで見た記憶はほとんど無い。平日の午後4時からの再放送で見たのだった。私が見始めたのはジーパンが出ていたシリーズのなかばからではないかと思われる。登場のシーンは確か再放送で、「へーぇ、留置場からの登場か」と普通の刑事ドラマではない切り口に驚いたものだった。

とにかくジーパン刑事はカッコよかった。大人になることはジーパンみたいになることと思っていたのかもしれないが、それは子供の口からいうのさえはばかられた。空手といえばブルース・リーの方が強いというクラスの子供もいたが、小犬をかわいがり、殉職した父をついで刑事になったジーパンの走る姿は、放送のある金曜日には学校からの帰り道、小学生を走らせたものだった。「追跡のテーマ」とともに。

ジーパンの最後の姿は白のジーパンと白のジャケットが血で赤く染まったものだった。「なんじゃこりゃー」と絶叫し、「死にたくない」といいながらくわえた煙草が口もとから力無くおちる。(確かこんな感じ)脚を負傷したゴリさんは間に合わなかった。どうしたんだよヤマさん。子供心に都合良く死んで行くジーパン。一係のあの席でボスは電話をかけていた。電話の向こうのシンコは、ボスの長い沈黙の意味を悟り涙を流すのであった。

たぶん小学生になったばかりの私は、ジーパンが走ったり、空手のみで凶悪犯に立ち向かったりする、ジーパンの動きだけしかわからなかったはずである。今にして思えばいくら私がませていても、小学生が毎回みてわかる類の話しばかりではないはずで、それでも楽しみにしていたのだから、やはり太陽にほえろはジーパンだったのだ。殿下のことは後から再放送での印象しかない。繰り返し再放送を見ることで、ジーパン刑事のエピソードを詳しく知り、さらにジーパンから松田優作へのあこがれにかわっていったのだと思われる。